改訂新版 世界大百科事典 「トゥーレーヌ」の意味・わかりやすい解説
トゥーレーヌ
Touraine
フランス中西部の地方名,旧州名。ロアール川をはじめ,シェール川,アンドル川,ビエンヌ川,クルーズ川の流域にわたり,現在のアンドル・エ・ロアール県の県域とほぼ一致するが,東部ではロアール・エ・シェール県の一部,南部ではアンドル県とビエンヌ県の一部にまたがる。ロアール川右岸の北部一帯はガティーヌ地方,左岸の東部はシャンペーニュ地方,西部はリシュレ地方,南部はサント・モールの丘陵地帯とよばれる。主要都市は主都のトゥールのほか,アンボアーズ,シノンなどである。温和な気候風土に恵まれているため,ブドウをはじめとする果樹,野菜の栽培や養鶏,牧畜が盛んで,古くから数多くの城塞,城館,館が建てられた。ブドウ洒では,シノンとブールグイユの赤,モン・ルイの辛口の白,ブーブレーの発泡酒が名高い。果実は,レーヌ・クロードとよばれる特産のプラムをはじめ,セイヨウナシ,リンゴ,杏桃,クルミ,栗など種類も豊富。インゲンマメやアスパラガスの名産地でもある。花卉栽培や育苗業も活発で,名実ともに〈フランスの庭〉とよばれるにふさわしい。
おもな文化財としては,ロアール川流域のアンボアーズ城,レオナルド・ダ・ビンチ終焉(しゆうえん)の地クロ・リュセの館,ロンサールゆかりのサン・コームの小修道院,《眠れる森の美女》の舞台といわれるユッセ城など,シェール河畔では,川にまたがる名城シュノンソーの城館,庭園美で知られるビランドリーの城館,アンドル河畔では,優雅な名城として知られるアゼー・ル・リドーの城館,バルザック記念館になっているサッシェの館など,ビエンヌ河畔では,ジャンヌ・ダルクゆかりのシノン城,サン・マルタンの墓のあるカンドの聖堂などが名高い。トゥーレーヌ地方で話されるフランス語は,この地方に好んで滞在した王侯貴族や上流社会の人びとの影響をうけ,きわめて優雅で気品に富むといわれ,模範的なフランス語とみなされている。近代産業の分野では,1963年,ロアール川左岸のアボアーヌ・シノンに,フランス初の原子力発電所が設置された。
執筆者:稲生 永
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報