日本大百科全書(ニッポニカ) 「とろろ汁」の意味・わかりやすい解説
とろろ汁
とろろじる
ヤマノイモ、ナガイモなどをすりおろして調味したもの。とろろというのは、とろとろする意である。中国では1200年の昔ナガイモを薯蕷(しょよ)といっていたが、唐時代の代宗皇帝の名が預であるので薯薬と改め、宋(そう)時代の英宗皇帝の名が署であることから山薬とした。現在、中国料理では山薬の文字を用いている。
とろろ汁は、イモの皮をむいて細かにおろし、さらにすり鉢ですって、みそ汁を冷やしておいたものか、だし汁を加えて延ばし、青のりを加えると味がよくなる。とろろは熱を加えると分離するので、汁はかならず冷やしておいたものを加える。「麦とろ」は麦飯にとろろ汁をかけたもので、滑りよく口を通り味もいい。これに「ことづて汁」の異名があるのは、「よくいい(飯)やる」の意であるという。とろろを小鉢にとり、真ん中に卵黄を割って落とし青のりをかけたのが「月見いも」。「山かけ」はとろろと卵黄をかき混ぜ、その中にマグロの角切りかほかの好みの魚を加えたものである。郷土料理としては江戸時代、東海道丸子(まりこ)の宿のとろろ汁が有名で、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の『東海道中膝栗毛(ひざくりげ)』のなかにも取り入れられている。芭蕉(ばしょう)は「梅若菜丸子の宿のとろろ汁」と詠んでいる。江戸時代の有名文献である『食物和歌本草』に「とろろ汁折々少し食すれば脾腎(ひじん)のくすり気虚を補う」と記してある。
[多田鉄之助]