日本大百科全書(ニッポニカ) 「みそ汁」の意味・わかりやすい解説
みそ汁
みそしる
みそをだし汁で溶き、中に野菜、魚貝、肉、海藻などを加えた汁物。みその渡来は古く、奈良時代には、すでにみそが使われていたから、みそ汁も当然その時代にはあったものと考えてよい。また、江戸時代には、商家で働く者の食事などにみそ汁が多く使われていた。みそは味にそれぞれ特徴があり、栄養的にもダイズを原料に用いるためタンパク質補給源としても値うちがあったからであろう。その価値のためもあってか、近年まで、みそ汁を「おみおつけ」とよんでいた。これは、ご飯につけるみそ汁の女房詞(ことば)「おつけ」に、さらにていねい語、尊敬語の「御御(おみ)」をつけて御御御汁(おみおつけ)としたもので、敬語が三つも重ねられているのは、よほどその価値を高く評価したのであろう。一汁三菜という日本料理の基本形態でも、一汁にみそ汁を多く用いている。明治、大正時代はどこの家庭でも粒みそをすり鉢ですって、毎朝のみそ汁をつくったが、いまはすりみそをそのまま用いる家庭が大半である。
種類
みそ汁は、みその種類とだしの種類、それに実の種類で、じつに多種のものがある。普段の食事に用いるものや、祝儀のときに主として用いられるものがあり、各地で、大きな違いがある。だしは、煮干しが多く用いられるが、かつお節を削った削り節や、昆布(こんぶ)などが用いられることもある。米みそ、豆みそ、麦みそにより、また甘みそ、辛みそにより、それぞれ適しただし汁があり、各地で特徴のあるものが用いられている。現在では一般に関西では煮干しが多く、関東では削り節が多く用いられる傾向があるようであるが、これらを混合して、うまく調味しただしの素(もと)なども多用されている。
みそ汁の実は、海藻の場合、関東ではワカメが、関西では、地域によりアオサなども用いられ、黒潮の流れる沿岸地域では刻み昆布を用いることが多い。またタンパク質系のものとしては、豆腐が多く、それに油揚げや麩(ふ)なども用いる。さらに関東、東北では、納豆なども加える。薬味としてはネギ、七味唐辛子、野菜類としてはダイコン、ニンジン、いも類、キノコ、ウリ類など、じつに幅広く用いられるが、みなその土地にとれるものが多い。動物性のものでは、豚肉、鶏肉などがよく使われるが、昔は野鳥なども用いられたと思われる。たぬき汁は、本物のタヌキの肉を入れたみそ汁であるが、禅寺でいうたぬき汁は、こんにゃくをちぎり、油炒(いた)めしてみそ汁に加えたものである。同じみそ汁でも関東では辛いみそ、関西では甘くこってりした白みそでつくることが多い。
郷土料理のなかにも、種々のみそ汁がある。北海道のあど汁は、生サケの頭と内臓を細かく切り、よく煮てからみそを加えて汁をつくる。山梨のおしゅくじりは、みそ汁の中に乾燥させたカブ、ダイコン、カボチャなどを適宜加え、小麦粉の水溶きをやや濃くして加える。現在はそれに鶏肉か豚肉を入れることが多い。三重のお講汁(こうじる)は、伊勢(いせ)名物のダイコンがかならず入った大鍋(なべ)仕立てのみそ汁で、伊勢講で参拝する人たちにふるまう。奈良の粉豆腐のみそ汁は、ダイズ3、糯米(もちごめ)7の割合のものを粉にして、湯を加えてこね、細長く伸ばして3センチメートルくらいに切ったものをナスといっしょにみそ汁仕立てにする。香川の冷(ひ)や汁(じる)は、みそを濃いめにしてキュウリの薄切りを実にしたもの。長崎の冷や汁は、ゴマのすったものを加えたみそ汁。山口のすり流し汁は、エソその他の魚のすり身を実にしたものである。儀式として用いられるみそ汁は、主として雑煮で、京都ではサトイモが、大阪ではブリが実として入るが、四国、中国では、白みそ仕立てのみそ汁に甘い餡(あん)の入った小形の餅(もち)が入る。これは、現在でも、祝儀の膳(ぜん)には欠かせないものとされている。
[河野友美・多田鉄之助]
栄養
みそ汁は、みそのもつタンパク質や脂肪分などの成分を含み、栄養的に優れている。とくに、ご飯と組み合わせると、ご飯に不足するリジンやトリプトファンなどのアミノ酸類を、みそのダイズタンパク質が補うというよい面をもっている。また、中に入れる実によって、より栄養効果を高めることもできる。さらに、みそには多量の乳酸が含まれているが、みそ汁にして食べると、これが塩分とともに胃液の分泌を高めるという作用もある。ただし、みそ汁には一椀(わん)で1~2グラムの塩分を含むので、とりすぎには注意が必要である。
[河野友美・多田鉄之助]
みそ汁のおいしさ
みそ汁のおいしさは、みその風味、だしのうま味、みその粒子にある。みそはたいへん種類が多く、それぞれ味や香り、塩分などが異なるので、2、3種混ぜて使うとみその味が重なり合ってよい風味が出る。だしは、みそが植物系の味なので、どちらかといえば、煮干し、カツオやサバなどの削り節、魚のだしなど動物系の味があう。これら動物系のだしにはイノシン酸の味が、みそにはダイズタンパク質に多いグルタミン酸の味が含まれ、これらがあわさると味が飛躍的に強く感じるからである。みそ汁はみその粒子の大きさもたいせつで、みそを煮返したり煮立てすぎると、みその粒子が互いに結合して大きな粒子となる。また、このときうま味成分なども吸着する。その結果、口あたりがざらつくとともに、うま味の少ないみそ汁になる。加熱の必要な実はだしで煮て、みそを溶き入れたら一泡、二泡たったところで火を止め、熱いうちに食べることである。
[河野友美・多田鉄之助]