月見(読み)ツキミ

デジタル大辞泉 「月見」の意味・読み・例文・類語

つき‐み【月見】

月をながめて楽しむこと。特に陰暦八月十五夜中秋名月)、九月十三夜(のちの月)の月を観賞すること。また、その集まりや宴。 秋》「雲をりをり人を休むる―哉/芭蕉
卵を落とし入れた料理。卵黄を月に見立てていう。月見とろろ・月見饂飩うどん・月見蕎麦そばなど。
近世成人祝儀の一。女子の鬢除びんそ男子袖止めの祝い。ふつう、16歳の6月16日に行い、その夜、月に供えた饅頭に穴をあけ、その穴から月見をした。
[類語](1観月

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精選版 日本国語大辞典 「月見」の意味・読み・例文・類語

つき‐み【月見】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 月をながめて賞すること。特に、陰暦八月一五日(中秋名月)と九月一三日(十三夜)の月を賞すること。薄の穂や里芋、栗、団子などを供えたりする。おつきみ。観月。《 季語・秋 》
      1. 月見<b>[ 一 ]</b><b>①</b>〈絵本藻塩草〉
        月見[ 一 ]〈絵本藻塩草〉
      2. [初出の実例]「春は花みの岡の御所、秋は月見の浜の御所」(出典:平家物語(13C前)七)
    2. 近世、公家の子女の成人の祝儀の一種。一六歳に達した六月一六日に男子は脇ふさぎ、女子は鬢そぎを祝しての月見をいう。月見は一六日の夜、饅頭を月に供え、その饅頭一個を取って孔をあけ、その孔から月をのぞき見る作法。
      1. [初出の実例]「今日右近局(十六歳)鬢曾木被仰出〈略〉夜に入、月見の作法有之由也」(出典:忠利宿禰記‐寛文二年(1662)六月一六日(古事類苑・礼式七))
    3. 山芋をすりおろしたものの上に生たまごの黄身をおとしたもの。黄身を月にみたてていう。
    4. つきみうどん(月見饂飩)」「つきみそば(月見蕎麦)」の略。
      1. [初出の実例]「其種類にもかけ・盛りを普通(なみ)とし、笊籬(ざる)・餻(あん)かけ・山かけ・月見〈略〉など甚だ多し」(出典:東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉中)
    5. 月経の俗称。
      1. [初出の実例]「蛤も紅緒口になる初月見」(出典:雑俳・柳多留‐一三五(1834))
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] ( 「訪月」とも書く ) 平曲の曲名。治承四年(一一八〇福原遷都の行なわれた秋、徳大寺実定が古都の月を見て、荒廃を嘆く場を曲にしたもの。八坂流が廃絶した時、この曲だけが一方(いちかた)流に伝わり残った。
    2. [ 二 ] 地歌の曲名。長歌に属す。元祿(一六八八‐一七〇四)頃、小野川検校るい一作曲。秀松軒作詞。廓の月見を扱ったもの。本調子。

月見の語誌

( 1 )中国では古くから十五夜を仲秋節といい、瓜や果物などを供え、月餠を食べて、月見をする風があった。それが奈良時代に日本に伝わり、貴族たちは月を観賞し、詩歌や管弦を楽しんだ。
( 2 )暦の普及以前月々の満月の日はいわば折り目の日であり、元来日本人はこの日の月を大事にしていた。特に陰暦の八月一五日は初穂祭で、民間では農耕儀礼の一つとしての意味合いが濃い。八月一五日を芋名月、九月一三日を豆名月栗名月と呼ぶのも農作物との関わりを示している。
( 3 )八月一五日の供え物として、里芋と並び最も広く行なわれているのは月見団子である。中国の月餠にならったものといわれるが、芋に似た形のもの、平たいものなど地方によりさまざまである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「月見」の意味・わかりやすい解説

月見
つきみ

月を眺め賞することであるが、一般には八月十五夜、九月十三夜の月を祀(まつ)ることをいう。岩手県、熊本県では正月の十五夜を月見とする所もある。

 月見には、月見団子と、その年収穫したいも(サトイモサツマイモ)やクリなどの畑作物を供え、ススキを飾る所が多い。八月十五夜を芋名月、九月十三夜を豆名月ともいい、8月の月見をすれば、9月の月見もかならずするものだという所がある。どちらか一方のみをすることを、片月見といって忌み、東京などでは片月見は災いがくるといって忌んでいた。福岡県の海岸地方では九月十三夜を女名月といい、この日は女が幅を利かす日だと伝えている。これは、中国で八月十五夜を中秋節といって、女の祭りとされているのと関連するのかもしれない。中国でも月餅(げっぺい)やスイカ、ナシ、カキなどの丸い果実を月に供えているが、日本の月見の供物も同様である。

 長野県には、小麦の月見ということばがあり、八月十五夜の晩、天気がよければ小麦が豊作、あるいは稲の中手がよいとも伝えている。小麦の名月は、佐渡では6月15日の満月で、この夜、小麦の団子を供えるという。

 月見の供物は、どこの家のものでもとってよいという地方は多い。東京近郊でも子供にとられると縁起がよいと伝えている。長野県では襷(たすき)一杯だけは、供物だけでなく、畑作物でもこの夜はとってよいという。襷一杯とは、襷で結ぶことのできる量ということである。大阪などでは前掛け一杯のものならよいと伝えている。これだけは公然と盗んでもよいというわけである。今日ではこの行為は、教育上よくないといって学校で禁じているが、本来は、盗みは、この夜訪れてくる神に盗まれること、すなわち神に受納されたと理解し、盗まれることを喜んでいたのである。

 十五夜の月の光によって1年の運を占う風(ふう)もある。沖縄では、八月十五夜にフチャギという小豆(あずき)を表面につけた餅(もち)をつくり、集落全体が見渡せる小高い所に登り、月に照らし出された家々を眺める。栄える家は暗く沈み、厄(やく)のある家は、家の中まで明るく見えるという。岩手県、熊本県、岐阜県などでも、正月十五夜の晩、月の光に映し出された自分の影を見て、1年の運を卜(ぼく)する風があった。影に首のない者は、その年のうちに死ぬというのである。1年の占いをすることは、この夜が年の境であったことを示すもので、八月十五夜の月見も、年越しの一つの習俗だったのである。

[鎌田久子]


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改訂新版 世界大百科事典 「月見」の意味・わかりやすい解説

月見 (つきみ)

平曲,能の曲名。(1)平曲 平物(ひらもの)。フシ物。平清盛の考えで福原遷都が行われた年の秋のことである。人々は須磨,明石などの名所で思い思いに月見をした(〈三重(さんじゆう)〉)。徳大寺左大将は,旧都で十五夜を過ごそうと京に戻ったが,わずかの間にようすが変わり,残っている家々も荒れ果てた感じだった(〈初重(しよじゆう)〉)。大将が姉である大宮(皇太后)の御所を訪れると,琵琶を弾いていた大宮は夢かと喜んで招き入れた。この御所には待宵小侍従(まつよいのこじじゆう)と呼ばれる女房がいた。〈待つ宵の更け行く鐘の声聞けば,帰るあしたの鳥は物かは〉という歌を詠んだので付いた名である(〈サシ声など〉)。大将はこの女房も呼び出して姉たちと語り合い,〈古き都に来て見れば……〉という今様を歌ったところ,女たちは涙を流した(〈三重〉)。夜明けに御所を辞去した大将は,あまり人々がなごり惜しそうだったので,途中から供の蔵人を御所に戻らせ,重ねてあいさつしてくるように命じた。御所に着いた蔵人が,〈物かはと君が言ひけん鳥のねの今朝しもなどか悲しかるらん〉と詠んだところ,小侍従は〈待てばこそ更け行く鐘も辛からじ飽かぬ別れの鳥のねぞ憂き〉と返したので,その後,物かはの蔵人と呼ばれるようになった(〈初重など〉)。

 比較的短いが優雅な曲で,三重,初重などの旋律的な曲節が多くの部分を占めている。今様の詞章を《越殿楽(えてんらく)》風の旋律で歌う伝承があると主張し,実際にそう演奏する人があるが,根拠に乏しい。

(2)能 三番目物鬘物(かつらもの)。非現行演目。作者不明。シテは待宵小侍従。平曲の筋をそのまま舞台化した能だが,大宮(ツレ)が琵琶を弾ずるのを大将(ツレ)を招じ入れたあとにし,今様のあとに大宮の命で小侍従が舞を舞うことにするなど,能に仕立てるための最小限度の変更が見られる。蔵人はワキとする。
執筆者:


月見 (つきみ)

陰暦八月十五夜と九月十三夜を〈お月見〉〈名月(めいげつ)〉と呼んで,さまざまな供物をして月を拝し,また観賞する風は広く各地にゆきわたっている。都市とその周辺では,名月が古来,詩歌や俳諧の好題目とされてきたこともよく知られている。供物は異なるが,こうした中秋の名月観賞の風は,すでに中国唐代の記録に記されているから,それが朝鮮,日本に伝わって上流階級の間に行われ,しだいに民間にも及んだものと考えられる。ところが,日本の基層文化における中秋名月は,稲とサトイモの祭儀と結びついている点が注目される。そして稲作よりも畑作に関する儀礼の比重が,はるかに大きいことがしだいに判明してきている。さらに最近では,中国大陸華南地域の漢民族や山地焼畑栽培民の間でも,八月十五夜の満月祭がサトイモ系統の芋(いも)類の収穫儀礼としての意味をもつことが明らかにされてきている。したがって,次にはそれと日本の畑作物の収穫儀礼としての名月の祭儀との間にどのような関連があるのかが大きな問題となってくる。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「月見」の意味・わかりやすい解説

月見
つきみ

旧暦の8月 15日 (十五夜 ) と9月 13日 (十三夜 ) ,ときには 10月 10日に月に供物を上げ,月を拝み賞する年中行事。月の見える縁側などに机を出し,団子や季節の野菜などを供える。十五夜は里いもを供えることが多いので芋名月,十三夜は枝豆を供えるところから豆名月とも呼ぶ。十五夜と十三夜とは両方とも祝うべきものとされており,一方だけしかまつらないのを片月見といって忌む。月見団子は小さなものを数多く盛って供えるが,子供たちが家々をまわって団子盗みをすることがある。盗まれた家ではお月様が受納したといって叱らないならわしである。九州南部では名月の夜に綱引きがある。和歌山県の一部では月見の日に竿の先に稲穂を結びつけて庭に立てるところがあり,九州の阿蘇でも稲穂を抜いて作神様に供える例がある。これらの例からすすきを供えるのも稲穂の変化とみられ,月見行事を稲の収穫に先立つ穂掛祭の一種とする考えもある。

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百科事典マイペディア 「月見」の意味・わかりやすい解説

月見【つきみ】

旧暦8月15日の仲秋の名月と,同9月13日の後の名月を賞する行事。中国の風に習って平安時代に始まり,宮中で詩歌管絃の催しがあった。江戸時代には民間でも盛んになり,ススキと秋草をいけ,だんご,枝豆,サトイモ,クリ,カキなどを供えるようになった。信濃の姨捨(おばすて)山,遠江(とおとうみ)の佐夜ノ中山などが月の名所として知られた。

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世界大百科事典(旧版)内の月見の言及

【卵】より

…かきたまは,とき卵に片栗粉などを加えて汁に流し入れる。月見と呼ぶものは,卵黄または卵をそのまま落としたもので,とろろいも,そば,うどんに使われる。変わったものには卵黄のみそ漬がある。…

【ヤマノイモ】より

…さらに,沖縄にも自生するソメモノイモは地下に木質で暗赤色の大きな地下茎を作り,衣料の染料に利用される。【堀田 満】
[調理]
 すりおろしてとろろにつくり,清汁(すましじる)やみそ汁でのばしてとろろ汁,そのまま小鉢に盛って卵黄を落とす月見,マグロのぶつ切りにかける山かけ,白身の魚の上にかけて蒸す〈薯蕷(いも)蒸し〉などにする。ナガイモは粘りが少ないので,とろろには適さず,刻んでノリをかけ,ワサビじょうゆで食べるのがよい。…

※「月見」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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