改訂新版 世界大百科事典 「トワルドーフスキー」の意味・わかりやすい解説
トワルドーフスキー
Aleksandr Trifonovich Tvardovskii
生没年:1910-71
ソ連邦の詩人,編集者。スモレンスク州ザゴーリエの鍛冶屋の息子。モスクワ哲学・文学・歴史大学卒業。1924年から郷里で新聞記者となる。30年代から詩作を発表,36年農業集団化運動の中で〈コルホーズのない国〉を求めてさまよう農民を主人公にした叙事詩《ムラビア国》(1936年刊。41年国家賞受賞)が注目される。ソ・フィン戦争,第2次世界大戦の従軍体験にもとづく連作叙事詩《ワシーリー・チョールキン》(1941-45)は,生命力にあふれる素朴なロシアの一兵士を主人公に,民衆的なユーモアとペーソスを歌いあげた傑作で,圧倒的な人気を博し,亡命中のブーニンまでをも賛嘆させた。50年代初めからスターリン体制への鋭い内省をこめた哲学的叙事詩《遠い,遠いかなた》(1950-60。61年レーニン賞受賞)を書き,ソ連知識人の良心ともいうべき存在となる。この立場は50年から編集長となった文芸誌《ノーブイ・ミール(新世界)》の編集方針にも反映され,同誌を非スターリン化路線の推進母体とした。〈路線の行過ぎ〉を批判されて,一時更迭もされたが,非妥協の道を貫き,エレンブルグの回想録,ソルジェニーツィンの初期作品などを誌上に発表,ソ連の文芸革新に大きく寄与した。70年の編集長解任はソ連文芸政策の転換点と目される。作品にはほかに《路傍の家》(1946),強烈な風刺詩《あの世のチョールキン》(1963)などがある。
執筆者:江川 卓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報