改訂新版 世界大百科事典 「ドレッドスコット事件」の意味・わかりやすい解説
ドレッド・スコット事件 (ドレッドスコットじけん)
Dred Scott Case
黒人奴隷のアメリカ合衆国憲法上の地位を争った訴訟。1857年,最高裁は奴隷は憲法にいう〈国民〉には当たらず,〈財産〉であると判決した。ドレッド・スコットはミズーリ州に住む奴隷であったが,所有主に従って奴隷制を禁止するイリノイ州および隣接の準州に移住し,4年後ミズーリ州に戻った。彼は自由州,準州に居住したことで自由人の地位を得たと主張し,1846年,その確認を求める訴訟を起こした。最高裁は次の点を判断した。(1)黒人奴隷であるスコットは合衆国憲法にいう国民には含まれず,連邦裁判所に提訴できない。(2)彼の法的地位は居住するミズーリ州(奴隷州)の法律によって決まる。(3)北緯36°30′以北の準州において奴隷制を禁止した1820年のミズーリ協定は,その地に移転する奴隷所有者から〈適正な法の手続〉(合衆国憲法第5修正。デュー・プロセス・オブ・ロー)によらずに財産権を奪うもので違憲である。この判決は自由州と奴隷州との対立に油を注ぐことになった。最高裁の判断は,南北戦争の結果,合衆国憲法に加えられた第13(奴隷制の禁止),第14(国籍の付与)修正によって否定された。
執筆者:藤倉 皓一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報