法の適正な過程。日本においては〈適法手続〉または〈適正な法の手続〉〈法の適正な手続〉とも訳される。アメリカ憲法上の基本的な観念の一つ。合衆国憲法第5修正(1791成立)には,〈何人も……法の適正な過程によらずに,生命,自由または財産を奪われることはない〉という定めが置かれており,同第14修正(1868成立)には,〈州は,何人からも,法の適正な過程によらずに,その生命,自由または財産を奪ってはならない〉という規定がある。州憲法にも,同じようなデュー・プロセス条項をもつものが多い。デュー・プロセスという言葉は,当初は手続の適正のみを要求するものと解釈されていた。しかし,19世紀の半ば近くから,まず一部の州の裁判所が,その州の憲法中のデュー・プロセス条項について,立法が実体的にも適正であることを要求するものであるという判例を出した。そして合衆国最高裁判所でも,合衆国憲法中のデュー・プロセス条項について,同じ立場をとる少数意見が出され,それが1890年代に多数意見となった。
合衆国憲法中のデュー・プロセス条項について注意すべきことは,第5修正中のそれは,連邦議会の立法その他連邦の機関の行為に適用されるものであり,第14修正中のそれは,州の行為に適用されるものであるという点である。そして,人権の保障に関して,連邦との関係では合衆国憲法の第1~第8修正に詳しい権利章典があるので,その中に明文があればデュー・プロセス条項を用いずに解決されるが,州との関係では合衆国憲法の規定が簡単なため,同種の問題がデュー・プロセス条項を通して解決される場合が少なくない。逆に,法の平等なる保護の保障は,州との関係では第14修正第1節に明文があるが,連邦との関係では明文がないので,第5修正中のデュー・プロセス条項の〈自由〉に法の平等なる保護を受ける自由も含まれるという解釈によって,同じ目的が達成されている。
このように,デュー・プロセス・オブ・ローは,裁判所が基本権として保護するに値すると考えたものを保障する際に,よりどころとなる条文が他に存在しないときに用いる最後の切札的役目を担っている。したがって,デュー・プロセス条項にどのような内容が盛り込まれるかは,それぞれの問題について他に適用可能な条文があるかどうかによって左右されるとともに,そのときどきの裁判所の多数意見の世界観,人権観および違憲立法審査制度の運営に関する司法部の役割に関する考え方などに,強く影響されることになる。
歴史的にみれば,1890年代から1930年代までの合衆国最高裁判所の多数意見は,自由放任主義的世界観に立ち,この条項をもとに数多くの経済立法,社会立法を違憲とした。すなわち,ある法律による価格・料金の統制が企業の財産の公正な価格に対する公正な利益を保障していなければ,デュー・プロセスによらずに財産を奪うもの(違憲)とされた。最低賃金を定める法律や労働組合に加入しないことを雇用の条件とすることを禁止する法律は,労働力の売買に関して経営者,労働者が有する〈契約の自由〉をデュー・プロセスによらずに奪うもの(違憲)とされた。しかし,このような解釈は,合衆国最高裁判所が1937年以降の一連の判決で従来の判例の立場を基本的に変更したことによって,捨て去られた。今日ではそれに代わって,第14修正のデュー・プロセス条項について,信教の自由,言論の自由,刑事事件の被疑者・被告人の人権の保障の問題が大きくとりあげられている。
執筆者:田中 英夫
日本国憲法では31条〈何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない〉の問題として論じられているが,とくに次の2点に焦点が合わされている。(1)憲法31条は,デュー・プロセス・オブ・ローの規定か。(2)同条によるデュー・プロセス・オブ・ローの保障は,行政手続による人権の制限にも及ぶか。
(1)については,憲法31条の規定の仕方が合衆国憲法の場合と明確に異なっていること,日本国憲法では人権の保障につき多様な規定が設けられているから31条をデュー・プロセス・オブ・ローの規定と解釈する必要がないこと(手続の適正については32条以下が具体的な定めをしており,実体の適正についても他の人権規定で足りる)などを理由として,憲法31条はデュー・プロセス・オブ・ローの規定ではないとする学説もあるが,きわめて少数である。大多数は,同条をデュー・プロセス・オブ・ローの規定と解している。31条が合衆国憲法の強い影響のもとに成立したこと,他の憲法規定だけでは被疑者・被告人の人権侵害の可能性を必要最小限にくいとめがたいこと,などがその理由とされている。憲法の他の条文が明示していない適正の具体的内容として,手続の面では複数度の裁判の保障,当事者主義,〈無罪の推定〉原則などがあげられ,実体の面では犯罪構成要件の明確性,罪刑の均衡,刑法の謙抑性などがあげられている。最高裁判所も,1962年11月28日判決,75年9月10日判決などで,憲法31条をデュー・プロセス・オブ・ローの規定と解しているようである。
憲法31条をデュー・プロセス・オブ・ローの規定と解する場合,その保障が行政手続による人権の制限にも及ぶかどうかが(2)の問題である。同条の位置と文言からみて,行政手続の場合には及ばないとする学説もあるが,多数はこの場合にも及ぶと解している。合衆国ではデュー・プロセス・オブ・ローの規定が当然に行政手続による人権の制限にも及ぶと解されていること,現代の行政国家においては行政手続による人権の制限こそが問題であり,それに及ばないとすることは民主制の機能を部分的なものにしてしまいかねないこと,またそれに及ばないとすると行政庁による処分の段階では,不可侵の人権の制限について手続的な適正の中核をなす〈告知と聴聞〉の保障さえもなくなること,などが理由としてあげられている。この(2)の問題については,下級審の若干の判例が肯定的態度をとっているが,最高裁はまだそのような態度をとっていない。
執筆者:杉原 泰雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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