日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナイトレン」の意味・わかりやすい解説
ナイトレン
ないとれん
nitrene
飽和の中性の窒素化合物では通常、窒素原子が3個の原子または原子団と結合しているが、窒素原子がただ一つの原子団としか結合しておらず、その結果、窒素原子がさらに2個の結合しうる活性をもつ分子種をナイトレンあるいはニトレンという。炭素類似体のカルベンに対応して命名された。
たとえばフェニルアジドを光分解するとフェニルナイトレンが生ずる。この窒素原子上にはさらに結合の生成にあずかることのできる2個の電子がある。ナイトレンは二重結合に付加したり、あるいは炭素‐水素間の結合に挿入したりすることができる。このようなナイトレンの反応性は、カルベンによく似ている。
フォトレジストの製造の一つの方法では、芳香族のアジド化合物を含む高分子を基板上に塗布し、これに画像を当てて光を照射すると、光の当たった箇所ではアジドが光分解してナイトレンを発生し、これが高分子と反応する現象を利用する。また、ナイトレンを反応中間体として経由する反応のいくつかは、合成にも利用される。
[徳丸克己]