ナイトレン

化学辞典 第2版 「ナイトレン」の解説

ナイトレン
ナイトレン
nitrene

ニトレンともいう.一般式R-N:で表される一価の窒素化合物の名称.不安定な反応中間体としてのみ存在する.二価炭素化合物であるカルベンと等電子構造である.R = アルコキシカルボニル基,シアノ基,ベンゼンスルホニル基,アリール基ビニル基などが知られている.

アジドRN3の光または熱分解,第一級アミンの四酢酸鉛などによる酸化,ニトロおよびニトロソ化合物のリン化合物による脱酸素反応,含窒素複素環化合物の光分解などによって生成する.たとえば,フェニルアジドC6H5N3やベンゼンスルホニルアジドC6H5SO2N3の光分解によって,それぞれフェニルナイトレンC6H5-N,ベンゼンスルホニルナイトレンC6H5SO2Nが生成する.基底状態が三重項状態であることは,多くのナイトレンについてESRの測定によって確かめられる.アジドの光分解では,まず最低励起一重項状態のナイトレンが生じ,この段階で反応しないときは項間交差により基底三重項状態におちる.ナイトレンの反応性はその励起状態によって異なり,また置換基によっても異なる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ナイトレン」の意味・わかりやすい解説

ナイトレン
nitrene

1価の窒素原子と2対の非共有電子対をもつ,電気的に中性な有機化学反応中間体。炭素類似体のカルベンに対応して命名された。きわめて反応性に富む中間体として,その存在が確認されている。種々の発生法が知られているが,代表的な方法はアジドの熱または光による分解反応である。

ナイトレンの反応性はカルベンのそれとよく似ており,σ結合への挿入反応(式(1)),π結合への付加反応(式(2)),転位反応(式(3)),二量化(式(4))などが知られている。


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナイトレン」の意味・わかりやすい解説

ナイトレン
ないとれん
nitrene

飽和の中性の窒素化合物では通常、窒素原子が3個の原子または原子団と結合しているが、窒素原子がただ一つの原子団としか結合しておらず、その結果、窒素原子がさらに2個の結合しうる活性をもつ分子種をナイトレンあるいはニトレンという。炭素類似体のカルベンに対応して命名された。

 たとえばフェニルアジドを光分解するとフェニルナイトレンが生ずる。この窒素原子上にはさらに結合の生成にあずかることのできる2個の電子がある。ナイトレンは二重結合に付加したり、あるいは炭素‐水素間の結合に挿入したりすることができる。このようなナイトレンの反応性は、カルベンによく似ている。

 フォトレジストの製造の一つの方法では、芳香族のアジド化合物を含む高分子を基板上に塗布し、これに画像を当てて光を照射すると、光の当たった箇所ではアジドが光分解してナイトレンを発生し、これが高分子と反応する現象を利用する。また、ナイトレンを反応中間体として経由する反応のいくつかは、合成にも利用される。

[徳丸克己]


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