広い意味では、二つの分子が直接結合して新しい一つの分子を生成する反応をいう。反応する二つの分子は異なる種類の分子であることが多いが、同じ種類の場合もある。
狭義では、エチレン結合=、カルボニル基=Oなどの二重結合やアセチレン結合-C≡C-、ニトリル基-C≡Nなどの三重結合をもっている化合物に水素、ハロゲン、ハロゲン化水素、水など、比較的簡単な化合物が付加する反応をいう。付加反応は有機化学において重要である。次にいくつかの実例を掲げる。
(1)水素の付加(水素化、水素添加ともいう) 不飽和結合をもつ有機化合物に水素H2が付加する反応である。 のエチレンの場合のようにC=C二重結合に1分子の水素が付加してC-C単結合のエタンを生成する反応が典型的な例である。C≡C三重結合の場合には、1分子の水素が付加するとC=C二重結合になり、さらにもう1分子(合計2分子)の水素が付加するとC-C単結合になる。水素添加反応は油脂の硬化に応用されていて、マーガリンの製造工程において重要な反応である。硬化とは、油脂中に含まれている不飽和脂肪酸グリセリドの二重結合に水素を付加させて飽和脂肪酸グリセリドにする反応で、液体の不飽和脂肪酸グリセリドが固体の飽和脂肪酸グリセリドになり固化するのでこのようによばれている。
(2)ハロゲンの付加(ハロゲン化ともいう) この反応はハロゲンが付加する反応である( )。臭素Br2のほかにフッ素F2、塩素Cl2、ヨウ素I2などのハロゲンも付加反応を行うが、ヨウ素の場合は反応が遅く付加反応をおこしにくい。エチレン結合やアセチレン結合に対する臭素の付加反応は常温で速やかに進み、反応が進むと臭素の色が消えていくのが目に見えるので、これらの不飽和結合の存在を検出するのに利用されている。
(3)ハロゲン化水素の付加 不飽和結合にハロゲン化水素が付加する反応である。エチレンのC=C二重結合に塩化水素HClが付加すると、クロロエタンができる。水素H2やハロゲン(たとえばBr2)は対称分子であるので付加の向きは問題にならないが、ハロゲン化水素は非対称であるので、プロピレン(プロペン)のように非対称な二重結合に付加する場合には、付加の向きが問題になる。 の(2)の例では、塩化水素HClの水素Hが(H+として)先に二重結合の一方の炭素Cと結合し、次に塩素Clが(Cl-として)もう一方の炭素に結合して付加反応が完結することがわかっている。問題は、最初に結合する水素がプロペンの二つの炭素のどちらに結合しやすいかで、H+は水素が多くついている炭素のほうに結合するという規則性があるので、ハロゲン(Cl)は結合している水素が少ないほうの炭素に付加することになる。この法則をマルコフニコフ則という。この法則はHClの付加の場合にはかならず成り立つが、臭化水素酸HBrの付加の場合には成立しないことがある。
の(1)のように、二重結合が単結合になって(4)水の付加 水和反応ともよばれている。
に二、三の例を示す。水がH+とOH-に分かれて付加すると考えると、ハロゲン化水素の付加の場合と同様に付加の向きを予測することができる。このほかに、ジエン合成(ディールス‐アルダー反応)として知られている付加環化反応(環状付加)や、ビニル化合物の重合のような付加重合も付加反応の一種とみなされる。
また付加化合物を生成する反応も広くは付加反応とよばれている。
[廣田 穰 2015年7月21日]
『Peter Sykes著、奥山格訳『基本有機反応機構』(1996・東京化学同人)』▽『G・プロクター著、林民生・小笠原正道訳『有機反応の立体選択性――その考え方と手法』(2001・化学同人)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…置換反応は原子または原子団の組換えの反応である。付加反応は注目している原子の結合数が増加する反応である。脱離反応は注目している原子の結合数が減少する反応である。…
…一般式では不飽和結合は二重結合でも三重結合でもよい。典型的な付加反応としてアルケンに対する臭素や水素の反応がある。脱離elimination反応は形式的には付加の逆反応である。…
※「付加反応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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