ナショナルジオグラフィック(読み)なしょなるじおぐらふぃっく(英語表記)National Geographic

知恵蔵 の解説

ナショナルジオグラフィック

米国の科学誌。1888年1月、「地理学の知識の向上と普及」を目的に、非営利の科学・教育団体ナショナルジオグラフィック協会が米国ワシントンD.C.において設立され、その会員誌として同年10月に創刊された。創刊時には、赤褐色表紙で縦長の薄いパンフレットであったが、96年1月の月刊化を機に現在の「イエロー・ボーダー」または「ブライトリー・イエロー」と呼ばれる黄色い縁取りの表紙デザインとなる。98年1月、電話の発明者であるグラハム・ベルが第2代会長に就任。1905年、編集者のギルバート・H・グロブナーが、チベット自治区ラサの写真を使った11ページの紙面を作成した。当時、本文のない組写真の紙面は斬新で、これが会員から絶賛されたのを端緒に同誌はビジュアル雑誌として成長し、62年2月、米国では全ページをカラー写真にした雑誌第1号となった。日本では95年4月、ナショナルジオグラフィック初の現地言語版となる日本語版が、株式会社日経ナショナルジオグラフィックによって創刊された。現在、40の国や地域のローカル版が発行され、世界180カ国で840万部が購読されている。2015年、米国版は21世紀フォックス社とナショナルジオグラフィック協会が出資して設立した「ナショナル・ジオグラフィック・パートナーズ」社の発行となる。
ナショナルジオグラフィック協会は、自然、歴史、探検、地球環境、科学、宇宙など幅広い分野の調査・研究プロジェクトや教育、公共活動を支援している。これまで、1909年北極点初到達、11年インカ帝国の空中都市マチュピチュの発見、69年アポロ11号の人類初月面着陸、85年タイタニック号の発見など多くの成果が得られ、ナショナルジオグラフィックの誌面や書籍、DVDで紹介されてきた。支援した活動は1万件以上に上る。
2018年3月、米国版の編集長スーザン・ゴールドバーグは、人種問題(The Race Issue)を特集した4月号で、これまでナショナルジオグラフィックの記事や協会の活動において人種差別があったことを謝罪し、今後、人種問題に取り組むことを宣言する声明を掲載した。この特集は、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者であるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)の暗殺から50年となる節目に当たって企画された。「他人を取材する前にまず自分たちの過去を振り返るべきだろう」として、アフリカの歴史と写真の歴史を専門とする米バージニア大学のジョン・エドウィン・メイソン教授に依頼し、過去の記事を検証したところ、1970年代まで同誌は米国に住むアフリカ系アメリカ人や先住民を記事に取り上げたり会員として認めたりすることがなく、米国外では先住民に関して差別的な呼称や「気高い未開人」といった常套(じょうとう)句を用い、「西洋の技術に驚く先住民たちという構図」など欧米の白人文化の優越性に基づく記載をしてきたことが明らかになった。また、エキゾチックな踊り太平洋諸島の美しい女性といったステレオタイプな取り上げ方も慣例化していた。ただし、米国公民権運動の興隆後は、徐々に抑圧民族紛争ジェンダー、アフリカの現状などが扱われるようになっている。
声明においてゴールドバーグは、自身が創刊以来初の女性編集長であり、初のユダヤ人編集長であることに触れ、どちらもかつて差別されていたグループだとした上で、この特集で取り組んだ問題とその扱い方及び、同誌の制作にも多様なライター・編集者・写真家たちが関わっていることに、今後の編集者は誇りを持ってほしいと訴えた。また、読者に対しても同誌と共に人種問題の探究に参加してほしいと呼びかけている。ナショナルジオグラフィック日本語版でも、18年4月号で人種に焦点を当てた2本の特集「人種と遺伝子」「対立の心理学」と共に、ゴールドバーグの声明を掲載した。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ナショナル・ジオグラフィック
なしょなるじおぐらふぃっく
National Geographic

アメリカのナショナル・ジオグラフィック協会が1888年創刊した雑誌。創刊に先だって設立されたナショナル・ジオグラフィック協会は、多くの調査・探検プロジェクトを支援する世界有数の非営利の科学・教育団体である。初めは地理の知識の普及を目的としたが、現在は地球について興味をそそる真実を伝える家庭雑誌。発行部数は約850万部(2010)。写真記事を中心とした内容で、既知の世界への「安楽椅子旅行(アームチェア・ジャーニー)」の雑誌といわれる。地球が丸いことを証明した写真、海中・空中撮影の写真を最初に掲載した雑誌としても知られる。世界180か国で1000万人以上の読者をもち、1995年(平成7)には日本版『ナショナル・ジオグラフィック』が創刊された。

[常盤新平]

『大林辰蔵監修、Roy A. Gallant著『宇宙大紀行――タイム・トリップ200億年への招待』(1988・福武書店)』『ジェーン・リビングストン、フランセス・フラリン著、田中祥子訳『オデッセイ――ナショナル・ジオグラフィック傑作選』(1992・JICC出版局)』『竹内均監修、C・D・B・ブライアン著『人類の挑戦――冒険と発見の100年』改訂増補版(1997・ニュートンプレス)』『ナショナル・ジオグラフィック協会編『最後の楽園』(1997・日経BP社)』『ジェイ・アプトほか著、ロジャー・レスマイヤー編『驚異の地球――スペースシャトルが克明にとらえた大地、海洋、大気の映像』(1997・日経BP社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア の解説

ナショナル・ジオグラフィック

世界最大の非営利の科学・教育団体ナショナル・ジオグラフィック協会(本部・米国ワシントン)が発行する会員誌(月刊)。オールカラーのグラフィカルな雑誌として知られ,〈地理知識の普及と向上〉を掲げる同協会の理念にのっとり,地理学にとどまらず文化,自然,科学,技術と幅広い分野をカバーしている。1888年10月創刊。当時は科学パンフレットの形態をとっていたが,1896年1月に月刊誌となった際に黄色で縁取られた表紙の雑誌として生まれ変わり,以後トレードマークとなっている。この黄色は〈ブライトリー・イエロー〉(輝く黄色)と呼ばれる。《ボーグ》(1892年創刊),《タイム》(1923年創刊)などにも影響を及ぼしたとされる。1995年,初の現地語版として日本語版を創刊。2005年発刊のインドネシア語版で英語版を含め28ヵ国語版を数える。発行部数約920万部(2005)。

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