化学辞典 第2版 「ニトロシル化合物」の解説
ニトロシル化合物
ニトロシルカゴウブツ
nitrosyl compound
【Ⅰ】無機化合物でニトロシル基(-NO)を含むもの.NO+を含む化合物NOX.
(1)X=F,Cl,Br.いずれも室温では気体で折れ線形の分子である.例:NOF(49.00),NOCl(65.46),NOBr(109.9).いずれも各ハロゲン化カリウム塩とNO2の反応,または各ハロゲン単体とNOとの反応で得られる.折れ線形分子のN-O約1.14 Å.∠O-N-X約110~117°.N-X約1.52 Å(X = F),1.97 Å(X = Cl),2.14 Å(X = Br).融点-132.5 ℃(NOF),-59.6 ℃(NOCl),-160 ℃(NOBr),沸点-59.9 ℃(NOF),-6.4 ℃(NOCl),~0 ℃(NOBr).いずれも水で分解する.熱すると,
2NOX 2NO + X2
の平衡になる.冷却した液体では,
NOCl NO+ + Cl-
のようにイオン化する.NOFは,室温の気体はガラスや石英を腐食するが,低温の液体は石英ガラス容器に入れることができる.なお,NOFは,ロケット燃料の酸化剤や,合成反応のフッ化剤に利用される.[CAS 7787-25-5:NOF][CAS 2696-92-6:NOCl]
(2)X = -HSO4,-BF4,-ClO4など.室温でイオン結晶となり,NO+を含む.なお,NO+のイオン半径(1.42 Å)はNH4+のイオン半径(1.45 Å)に近いため,結晶がそれぞれNH4塩と同型となるものもある.例:硫酸水素ニトロシル,NOBF4(116.81),NOClO4(129.46).それぞれの遊離酸とNOとNO2のモル比1:1混合気体の反応などで得られる.上記三化合物はいずれも無色の斜方晶系のイオン結晶で,NO+と X- からなる.いずれも水で分解する.NOClO4は,ロケット推進薬の助燃剤になる.[CAS 14635-75-7:NOBF4].【Ⅱ】NO-を配位した金属錯体.例は少ないが,たとえばNa+NO-などが得られている.NO-を含む化合物はオキソ硝(Ⅰ)酸塩というべきであるが,これをニトロシルナトリウムのようによぶこともある.【Ⅲ】-NOを含む有機化合物はニトロソ化合物という.
(1)NOを配位子とする金属錯体.多くの遷移金属錯体が知られており,配位子がNOのみのものや,ほかの配位子との混合錯体の両方がある.いずれもNOはNで配位している.
(2)配位子がNOのみのもの.たとえば,Fe(NO)4(175.87)は,Fe(CO)5とNOとを加熱反応させると得られる.黒色の結晶.Cr(CO)4(172.02)は,Cr(CO)6とNOとの反応でつくる.暗赤色の結晶.
(3)混合錯体.多くのものが得られている.たとえば,[Fe0(CO)2(NO)2](171.88)は,Fe(CO)5とNOとの反応で得られる.深赤色の結晶.K3[MnⅡ(CN)5(NO)]は赤紫色の結晶.K4[Mo(CN)5(NO)]は深紫色の結晶.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報