日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニュー・ペインティング」の意味・わかりやすい解説
ニュー・ペインティング
にゅーぺいんてぃんぐ
new painting
1980年代に現れた美術の一潮流。色、形といった造形要素、作者の作為などを極端に削り落とした、1970年代のコンセプチュアル・アート(概念芸術)やミニマル・アートに対し、激しく揺れる心情を託すかのような荒々しい筆致や、物語性をもつ具象的な形を特徴に台頭した。代表的な作家にイタリアのエンツォ・クッキEnzo Cucchi(1949― )、フランチェスコ・クレメンテ、サンドロ・キアSandro Chia(1946― )、ドイツのゲオルク・バゼリッツGeorg Baselitz(1938― )、A・R・ペンクA. R. Penck(1939―2017)、アンゼルム・キーファー、アメリカのジュリアン・シュナーベルなどがいる。しかし、共同の主張を掲げて登場したわけではなく、実際には表現にも大きな幅があるこれら個々の作家を一つのグループとして扱うことには、慎重でなければならない。この傾向に対する呼称も、それぞれの国によって異なることがある。豊かな色彩や形態などを特徴とする自国の美術の伝統を受け継ぐイタリアではトランスアバングァルディアとよばれ、第一次世界大戦後におこった表現主義運動を現代に引き継ぐドイツの作家たちは新表現主義(ネオ・エクスプレッショニスム)と称される。また動向全体をさして新表現主義とする場合もあり、世界各地でほぼ同時に現れたこの傾向の名称は、いまだ一つに確定されていない。トランスアバングァルディアの名付け親である評論家のアキッレ・ボニート・オリーバAchille Bonito Oliva(1939― )によれば、この潮流は、つねに新しいものを求めながら前進、発展していくというモダン・アートの価値観が崩れ去るなかで、素材としての過去の諸様式をみいだしたことにその特徴があるという。このように歴史や物語、神話や寓意(ぐうい)を、時代や場所を超えて自在に参照する彼らの作品は、歴史と戯れるポスト・モダニズムの意識との関連において語られることも多い。
[蔵屋美香]