1925年創刊のアメリカを代表する雑誌の一つ(週刊)。元来、ニューヨーク近郊読者を主対象とした雑誌だったが、第二次世界大戦中に前線の軍人向けに刊行した小さなサイズの特別版(ポニー版)成功を機に、全国的な雑誌へと変貌(へんぼう)していく。創刊号の表紙に使用したシルクハットをかぶって片眼鏡で蝶を観察している紳士(ユースタス・ティリー)のイラストがトレードマークの同誌は、「街の話題」というコラム、質の高い一こま漫画、短編小説、ノンフィクションなど、ニューヨーク情報を満載した知的な総合誌で、「変わらない」ことが同誌の売り物でもあった。リベラルで質の高い文芸誌ともいえる同誌からは、トルーマン・カポーティの『冷血』、ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』など数多くの作品も生まれている。創刊以来ハロルド・ロスHarold Wallace Ross(1892―1951)が初代編集長を26年間、その後ウィリアム・ショーンWilliam Shawn(1907―1992)が2代目編集長を34年間務める。1950年代なかば以降のテレビの普及で、広告主が大部数雑誌からテレビのコマーシャルに宣伝予算を投入するようになり、『Look』『Life』『Saturday Evening Post』などの大部数雑誌が消えていく状況下でも、アップスケール(所得、教育、社会的地位などが水準以上)な富裕読者対象で読者の特性がはっきりしている『ニューヨーカー』は、選ばれた雑誌であった。ところが、1960、1970年代になると、『New York(Magazine)』(1968年創刊)をはじめ競合雑誌が創刊され、同誌にとって大切だった百貨店などの広告が奪われ始め、苦戦を強いられるようになる。1985年にアメリカのメディア王の一人、S・I・ニューハウスSamuel I. Newhouse, Jr. (1928―2017)率いるアドバンス・パブリケーション傘下のコンデ・ナスト社に買収されて以降は、編集長も以前に比べれば短い期間で交替するようになる。「変わらない」ことが売り物だった同誌も変わり始めたのかもしれない。販売部数約104万部(「部数公査機構」調べ、2009年平均)。
[藤本信彦]
『ブレンダン・ギル著、常盤新平訳『「ニューヨーカー」物語』(1985・新潮社)』▽『常盤新平著『「ニューヨーカー」の時代』(1999・白水社)』▽『Gigi MahonThe Last Days of The New Yorker (1988, McGraw-Hill)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ペニー・プレスの先駆的試みの一つである。34年文芸週刊誌《ニューヨーカーNewyorker》を出し,ホイッグ党系選挙キャンペーン用新聞《ジェファソニアンJeffersonian》《ロッグ・キャビンLog Cabin》の編集・発行を引き受けて,筆力のある政論家として認められる。41年4月10日,ニューヨークで高級なペニー・プレス《トリビューンTribune》,同年9月2日《ウィークリー・トリビューンWeekly Tribune》を発刊。…
…第1次大戦中は暗号係として勤務。その後オハイオ州立大学に戻り,卒業後は新聞記者になったが,1927年に《ニューヨーカー》誌に関係するようになり,以来同誌に短編,随想,寓話,漫文,挿絵などを寄稿し,創刊まもない同誌の人気を高めるとともに,その特異なユーモアも注目を集めた。機械文明のなかにうごめく人間の滑稽さ,迷妄,不安,孤独,悲しみなどを的確にとらえて風刺する。…
…ある特定都市を活動範囲とし,独自の取材・編集・配布網をもつ,原則として有料の一般雑誌のこと。アメリカ,カリフォルニアのゴールドラッシュ(1849)のときがその草創であるといわれるが,著名なものでは1925年の《ニューヨーカーThe New Yorker》がその嚆矢(こうし)と考えられている。また《サン・ディエゴ・マガジン》(1948)で新しいシティ・マガジンのスタイルが確立され,《ニューヨーク・マガジン》(1968)以後,アメリカ各都市で本格化する。…
※「ニューヨーカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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