( 1 )[ 一 ]は「万葉」に例が多く、「…も…ぬか」の形になる係助詞「も」との呼応傾向や、打消表現一般に用いられた「不」字をこの場合は用いていないという表記上の特徴などによって、注意されてきた。しかし、連語としての意味の違いを除けば[ 二 ]と同様、打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」と疑問の係助詞「か」とで構成されている。
( 2 )打消の助動詞は疑問の助詞と呼応する場合、狭義の打消以外に、種々確認をするような意味合いで肯定的に用いられることが多く、[ 一 ]のように願望の意に用いられるのもその一つである。形は違っても、同様の呼応による願望の表現には、中古にも「御でしにやはなし給はぬといふ」〔宇津保‐忠こそ〕のような例がある。この例は疑問の係助詞「や」の文中用法および係助詞「は」が、「ず」の連体形「ぬ」と呼応したものである。
( 3 )上代語で「も」を用いた表現に中古以降「は」が取って代わる傾向は、反語の「かも」「やも」が「かは」「やは」に変わるのと同様であろう。この種の呼応が願望の表現になる一般傾向からいって、「万葉」に「ぬか」の形が特にめだつのは、文体の問題である可能性が強い。
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