改訂新版 世界大百科事典 「ハージブ」の意味・わかりやすい解説
ハージブ
ḥājib
イスラム諸国で,一般民衆が支配者に近づかないよう入口を守り,認められた者のみを会わせる役目を果たす,ほぼ〈侍従〉と訳される官職。アラビア語で,動詞ḥajaba(妨げる)の派生語。ウマイヤ朝初代カリフ,ムアーウィヤ1世のときから採用され,多くはマワーリー出身者で地位は低かったが,アッバース朝時代になると,宰相(ワジール)に次ぐ高位の官職となり,しばしば両者は対立した。スペインの後ウマイヤ朝では,ハージブは東方のそれと異なり,支配者を側近や一般大衆から守るとともに,支配者とワジールや下級官吏との間の仲介者の役割も果たしたので,ワジールよりも高い最高の地位を占め,政治について支配者の重要な補佐役となった。とくに同王朝末期では,ハージブが政治や軍事の全権を掌握し,カリフは形式的な主権者となった。マムルーク朝では,ハージブの職掌は拡大され,本来の職務のほか,支配階級たるマムルーク軍人以外の一般市民や下級兵士の提訴を受け付ける一種の行政裁判権を保持した。
執筆者:森本 公誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報