侍従(読み)ジジュウ

デジタル大辞泉 「侍従」の意味・読み・例文・類語

じ‐じゅう【侍従】

君主のそばに仕えること。また、その人。
明治2年(1869)以後、宮内省、のち宮内庁内に置かれた侍従職の職員。
律令制で、中務なかつかさに属し、天皇に近侍した官人。おもとびと。おもとびとまちぎみ。
薫物たきものの名。沈香じんこう丁子香ちょうじこう貝香などを練り合わせて作る。
[類語]側近側仕え

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「侍従」の意味・読み・例文・類語

じ‐じゅう【侍従】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 天皇の側にはべること。主君に近侍すること。
    1. [初出の実例]「大納言四人。〈掌〈略〉宣旨・侍従・献替〉」(出典:令義解(718)職員)
    2. 「小侍従といふかたらひ人は、宮の御侍従の乳母のむすめなりけり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    3. [その他の文献]〔漢書‐厳助伝〕
  3. 令制で、中務省の官人。天皇に近侍して護衛し、その用をつとめる。従五位下相当官で定員八人であったが、平安時代末には二〇人ばかりに増えた。じしゅう。
    1. [初出の実例]「侍従八人〈掌常侍。規諫。拾遺補一レ闕〉」(出典:令義解(718)職員)
    2. 「秋の司召に、かうぶりえて、侍従になり給ひぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)乙女)
    3. 「前右大将宗盛卿の子息侍従清宗、三位して三位侍従とぞ申ける」(出典:平家物語(13C前)四)
  4. 薫物の名。六種(むくさ)の薫物の一つ。沈香、丁子香、甲香、甘松香、熟鬱金香または麝香などを練り合わせて作る。
    1. [初出の実例]「山には黒方、じじう、薫衣香(くのゑかう)、合せ薫物どもを」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲中)
  5. 明治の官制で、宮内省に置かれた職。明治二年(一八六九)七月設置。〔広益熟字典(1874)〕
  6. 宮内庁の侍従職の職員。

おもと‐びと【侍従・御許人・陪従】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「おもとひと」とも )
  2. 令制で中務省に所属する官。天皇に近侍し、その職務を補足した。従五位下相当官。定員八名。のち、次侍従擬侍従などが加えられ、臨時の儀式に奉仕した。じじゅう。おもとびとまちぎみ。
    1. [初出の実例]「時に、天皇四(よも)を望みまして、侍従を顧みて曰(のりたま)ひしく」(出典:常陸風土記(717‐724頃)行方)
  3. 側近者。侍者。侍女。供奉者。
    1. [初出の実例]「帝の御母后のおもと人、この、知れる人のなかに言ひやる」(出典:平中物語(965頃)一)

おもとびと‐まちぎみ【侍従】

  1. 〘 名詞 〙おもとびと(侍従)〔二十巻本和名抄(934頃)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「侍従」の意味・わかりやすい解説

侍従 (じじゅう)

天皇の側近に供奉することを任とする官職。大宝令,養老令によると,侍従は中務省に所属し定員8人,うち3人は少納言兼任する。相当位は従五位下。その職掌は〈常侍,規諫(きかん),拾遺補闕(ほけつ)〉,すなわちつねに天皇に近侍し,諫(いさ)めただし,遺(わす)れたるを拾い,闕(か)けたるを補うことにあった。侍従の別名を拾遺ともいう。《北山抄》には元日の宴において大臣が侍従を呼ぶときは〈マフチギミ〉(マヘツギミの音便)と称することが見えるが,マヘツギミとは天皇の前に伺候する人の意である。このように本来の侍従は,天皇の側近に侍するという要職であったが,810年(弘仁1)に蔵人所が設置されてからはその職掌の多くは蔵人に吸収され,侍従はもっぱら儀式的な存在となった。それでも侍従の人数はしだいに増加し,《官職秘鈔》によると,9人となり,さらに10人から20人に増えたという。また儀式や宴会に際して天皇の側近に供奉するには,正規の侍従だけでは足りないため,臨時に次侍従などが任ぜられた。次侍従は《続日本紀》宝亀元年(770)にはじめて見え,《延喜式》にその定員は正規の侍従を含め100人を限度とすると定められている。同様の臨時の職員として,擬侍従,出居(でい)侍従,酒番侍従,非侍従などがあった。1869年(明治2),侍従は宮内省の職員となり,正五位の官と定められた。71年に侍従長が設置されてその職掌は常侍規諫兼ねて侍従を監することと定められ,84年侍従職が設置され,侍従長は勅任官,侍従は奏任官となった。なお,96年に侍従武官の制が定められ,軍事に関する奏上・奉答および命令の伝達等に任じたが,この制度は1945年に廃止された。

 現在は,総理府宮内庁の職員として侍従長,侍従次長,侍従があり,また皇太子に近侍する東宮侍従長,侍従がある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「侍従」の意味・わかりやすい解説

侍従
じじゅう

天皇側近の官。

(1)大宝令(たいほうりょう)には、天皇の側近に常侍して正し諫(いさ)め、「拾遺補闕(しゅういほけつ)」(遺(のこ)れるを拾い、闕(か)けたるを補う意)を任とすると規定する。これにより侍従を拾遺あるいは補闕とも称した。中務(なかつかさ)省に属し、従(じゅ)五位下を相当位とし、定員8人で、うち3人は少納言(しょうなごん)が兼帯すると定められた。ほかに儀式のとき御前の雑事を勤める次(じ)侍従、節会(せちえ)のとき殿上で勧盃(けんぱい)の役などを勤める酒番(さかばん)侍従、即位および元日節会(がんにちのせちえ)のとき天皇の側に侍立する擬(ぎ)侍従などがある。『延喜式(えんぎしき)』には、次侍従は92人、酒番侍従は12人とするとみえ、擬侍従は左右各2人で、親王公卿(くぎょう)をあてた。嵯峨(さが)天皇のとき蔵人(くろうど)所が置かれてから、侍従の主要な職務は蔵人に移り、侍従は名誉職化して、公卿が兼帯する例も生まれた。

[橋本義彦]

(2)1869年(明治2)7月、宮内(くない)省の設置とともに侍従の官制も新しく制定され、正五位相当官となった。それまで天皇の周辺は、女官と一部の公卿によって固められていたが、そうした弊習を一新する宮廷改革の意図もあって、山岡鉄太郎、高崎正風(まさかぜ)ら公家(くげ)以外の、剛直な人物が選任された。75年侍講(じこう)、77年侍補(じほ)の制度ができ、侍従長、侍従とともに天皇の諸用、教養に奉仕することになった。86年改正宮内省官制で侍従長は勅任、侍従は奏任の官となる。現在は内閣府宮内庁の職員で、侍従長、侍従次長、侍従の3階級、および皇太子に近侍する東宮(とうぐう)侍従がある。

[佐々木克]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

普及版 字通 「侍従」の読み・字形・画数・意味

【侍従】じじゆう

貴人側近の従者。〔漢書、外戚、孝宣霍皇后伝〕初め許后賤よりる。~從官車甚だ儉なり。~霍后(くわくこう)立つにび、~輿駕(よが)侍從甚だんに、官屬に賞賜すること千を以て計(かぞ)へ、許后の時と懸す。

字通「侍」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「侍従」の意味・わかりやすい解説

侍従
じじゅう

(1) 律令制における中務省所属の官人。天皇に近侍してその職務を補った。「おもとひと」ともいう。唐名は拾遺。『大宝令』では8人であったが,11世紀中頃から増員されて 20人程度になった。そのうち3人は少納言を兼帯し,従五位下のものが任命された。その詰所を侍従局といい,侍衛の官であったため帯剣が許された。そのほかに8省から功労ある四,五位の者が選ばれ御前の雑事を司る次侍従,即位,元日朝賀に侍従として伺候する三,四位の擬侍従などがあった。 (2) 明治2 (1869) 年宮内省におかれた職。 (3) 宮内庁侍従職の職員。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「侍従」の解説

侍従
じじゅう

天皇の側につねに近侍する官職。令制によると,中務省に所属し定員8人。うち3人は少納言を兼任。官位相当は従五位下。「常侍規諫,拾遺補闕」を職掌とした。平安初期には,侍従は天皇の側近という意味に広く使用されるようになり,正規の侍従のほかに,次侍従・擬侍従・出居(でい)侍従などの職名が現れる。平安中期には摂関家など高級貴族の子弟が任じられることが多くなり,中世の公家社会でも公達(きんだち)が任じられるとある。一方,藤原行成が侍従大納言と称されたように,参議以上になったあとも侍従を兼任する例が散見する。江戸時代には武家でも高家などが任じられた。明治期以降,宮内省侍従職にその名が継承された。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

百科事典マイペディア 「侍従」の意味・わかりやすい解説

侍従【じじゅう】

天皇に近侍する官。律令制下では中務(なかつかさ)省に所属して定員は8人,うち3人は少納言が兼務。平安初期に近侍の実務は蔵人(くろうど)に移り,侍従はもっぱら儀式用の存在となって,臨時に任命されるものが増加した。現在は宮内庁職員として侍従長・侍従次長・侍従を置くほか,皇太子に近侍する東宮侍従がある。→蔵人所

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「侍従」の解説

侍従 じじゅう

?-? 平安時代後期の遊女。
遠江(とおとうみ)(静岡県)の国守として赴任中の平宗盛に寵愛(ちょうあい)される。のち京都に同行するが,母を思慕したため故郷の池田宿にかえされる。元暦(げんりゃく)2年(1185)壇ノ浦の戦いに敗れて鎌倉へおくられる宗盛に歌をおくってなぐさめたという。「平家物語」では遊女宿の女主人熊野(ゆや)の娘とされ,歌をおくった相手は平重衡(しげひら)とされる。謡曲「熊野」の素材となった。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の侍従の言及

【少納言】より

…大納言のもとにあって小事を奏・宣し,駅鈴,伝符,官印(太政官印)等の管理をつかさどる。天皇に近侍する官であるので,少納言は同じく侍奉官で中務省の品官(ほんかん)である侍従を兼任する。しかし9世紀以降,奏宣官としての実権は蔵人(くろうど)に移った。…

※「侍従」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android