天皇の側近に供奉することを任とする官職。大宝令,養老令によると,侍従は中務省に所属し定員8人,うち3人は少納言が兼任する。相当位は従五位下。その職掌は〈常侍,規諫(きかん),拾遺補闕(ほけつ)〉,すなわちつねに天皇に近侍し,諫(いさ)めただし,遺(わす)れたるを拾い,闕(か)けたるを補うことにあった。侍従の別名を拾遺ともいう。《北山抄》には元日の宴において大臣が侍従を呼ぶときは〈マフチギミ〉(マヘツギミの音便)と称することが見えるが,マヘツギミとは天皇の前に伺候する人の意である。このように本来の侍従は,天皇の側近に侍するという要職であったが,810年(弘仁1)に蔵人所が設置されてからはその職掌の多くは蔵人に吸収され,侍従はもっぱら儀式的な存在となった。それでも侍従の人数はしだいに増加し,《官職秘鈔》によると,9人となり,さらに10人から20人に増えたという。また儀式や宴会に際して天皇の側近に供奉するには,正規の侍従だけでは足りないため,臨時に次侍従などが任ぜられた。次侍従は《続日本紀》宝亀元年(770)にはじめて見え,《延喜式》にその定員は正規の侍従を含め100人を限度とすると定められている。同様の臨時の職員として,擬侍従,出居(でい)侍従,酒番侍従,非侍従などがあった。1869年(明治2),侍従は宮内省の職員となり,正五位の官と定められた。71年に侍従長が設置されてその職掌は常侍規諫兼ねて侍従を監することと定められ,84年侍従職が設置され,侍従長は勅任官,侍従は奏任官となった。なお,96年に侍従武官の制が定められ,軍事に関する奏上・奉答および命令の伝達等に任じたが,この制度は1945年に廃止された。
現在は,総理府宮内庁の職員として侍従長,侍従次長,侍従があり,また皇太子に近侍する東宮侍従長,侍従がある。
執筆者:柳 雄太郎
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天皇側近の官。
(1)大宝令(たいほうりょう)には、天皇の側近に常侍して正し諫(いさ)め、「拾遺補闕(しゅういほけつ)」(遺(のこ)れるを拾い、闕(か)けたるを補う意)を任とすると規定する。これにより侍従を拾遺あるいは補闕とも称した。中務(なかつかさ)省に属し、従(じゅ)五位下を相当位とし、定員8人で、うち3人は少納言(しょうなごん)が兼帯すると定められた。ほかに儀式のとき御前の雑事を勤める次(じ)侍従、節会(せちえ)のとき殿上で勧盃(けんぱい)の役などを勤める酒番(さかばん)侍従、即位および元日節会(がんにちのせちえ)のとき天皇の側に侍立する擬(ぎ)侍従などがある。『延喜式(えんぎしき)』には、次侍従は92人、酒番侍従は12人とするとみえ、擬侍従は左右各2人で、親王や公卿(くぎょう)をあてた。嵯峨(さが)天皇のとき蔵人(くろうど)所が置かれてから、侍従の主要な職務は蔵人に移り、侍従は名誉職化して、公卿が兼帯する例も生まれた。
[橋本義彦]
(2)1869年(明治2)7月、宮内(くない)省の設置とともに侍従の官制も新しく制定され、正五位相当官となった。それまで天皇の周辺は、女官と一部の公卿によって固められていたが、そうした弊習を一新する宮廷改革の意図もあって、山岡鉄太郎、高崎正風(まさかぜ)ら公家(くげ)以外の、剛直な人物が選任された。75年侍講(じこう)、77年侍補(じほ)の制度ができ、侍従長、侍従とともに天皇の諸用、教養に奉仕することになった。86年改正宮内省官制で侍従長は勅任、侍従は奏任の官となる。現在は内閣府宮内庁の職員で、侍従長、侍従次長、侍従の3階級、および皇太子に近侍する東宮(とうぐう)侍従がある。
[佐々木克]
字通「侍」の項目を見る。
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天皇の側につねに近侍する官職。令制によると,中務省に所属し定員8人。うち3人は少納言を兼任。官位相当は従五位下。「常侍規諫,拾遺補闕」を職掌とした。平安初期には,侍従は天皇の側近という意味に広く使用されるようになり,正規の侍従のほかに,次侍従・擬侍従・出居(でい)侍従などの職名が現れる。平安中期には摂関家など高級貴族の子弟が任じられることが多くなり,中世の公家社会でも公達(きんだち)が任じられるとある。一方,藤原行成が侍従大納言と称されたように,参議以上になったあとも侍従を兼任する例が散見する。江戸時代には武家でも高家などが任じられた。明治期以降,宮内省侍従職にその名が継承された。
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…大納言のもとにあって小事を奏・宣し,駅鈴,伝符,官印(太政官印)等の管理をつかさどる。天皇に近侍する官であるので,少納言は同じく侍奉官で中務省の品官(ほんかん)である侍従を兼任する。しかし9世紀以降,奏宣官としての実権は蔵人(くろうど)に移った。…
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