日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒメクサアジ」の意味・わかりやすい解説
ヒメクサアジ
ひめくさあじ / 姫草鰺
spinyfin velifer
[学] Metavelifer multiradiatus
硬骨魚綱アカマンボウ目クサアジ科に属する海水魚。房総(ぼうそう)半島から沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)の太平洋、東シナ海、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ諸島、南アフリカなど太平洋、インド洋に分布する。体は円形で、強く側扁(そくへん)する。体長は体高のおよそ1.6~1.7倍。体の背腹の外郭はほとんど同様に湾曲する。頭は小さく、体長は頭長の3.2~3.4倍。頭部の背縁は目の上縁の前方で浅くへこむ。吻(ふん)は鈍く、吻長はおよそ眼径に等しい。口は小さく、かなり前方に突出させることができる。上顎(じょうがく)の後端は目の前縁に達しない。上下両顎、鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)および口蓋骨には歯がない。鰓耙(さいは)はこぶ状で少なく、上枝に3本、下枝に9本。体は薄い円鱗(えんりん)で覆われ、きわめてはがれやすい。吻部は鱗(うろこ)で覆われない。背びれの棘(きょく)部と臀(しり)びれの基底に鱗鞘(りんしょう)(基底付近を覆う鱗)が発達する。側線は鰓孔の上端から始まり、前部で緩く湾曲した後、尾柄(びへい)までほとんど直走する。側線鱗数は38~42枚。背びれと臀びれの基底は長く、そのうち軟条部の基底長は著しく短い。背びれは21~23棘20~23軟条。背びれの第6~10棘は伸長し、第6棘はもっとも長く、頭長のおよそ2.6倍。その後の棘は後方に向かって徐々に短くなる。臀びれは17~18棘16~19軟条で、第1棘は短い。それより後ろの棘は長いが、後方に向かって徐々に短くなる。尾びれは二叉(にさ)する。腹びれは胸びれ基底の後端下から始まり、長くて9軟条。体は上半部では淡褐色で、下半分では銀白色。体側に背縁から腹縁に達する5本の横帯がある。第1帯は目を横切り、第2帯は背びれ起部から始まる。第3帯は背びれ棘部基底の中央から始まりもっとも太い。第4帯は背びれ棘部基底の後端部から、第5帯は背びれ軟条部基底の後端部からそれぞれ始まる。背びれの軟条部基底に沿って3個の暗色斑紋(はんもん)があり、もっとも前のものは最大で、およそ眼径に等しく、狭い白色帯で縁どりされている。尾びれの上下両葉にそれぞれ5本の暗色斜帯があるが、成長するにつれて不明瞭(ふめいりょう)になる。腹びれ、背びれと臀びれの両棘部の鰭膜(きまく)は暗色。最大全長は約30センチメートルになる。大陸棚斜面、海山にすみ、底引網でまれにとれる。
クサアジ科には世界にクサアジ属クサアジとヒメクサアジ属ヒメクサアジの2属2種しかいない。クサアジは背びれと臀びれが三角形状であること、背びれに1~2棘、臀びれに1棘しかないことなどで、ヒメクサアジと容易に区別できる。
[尼岡邦夫 2024年8月16日]