日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビュクナー」の意味・わかりやすい解説
ビュクナー
びゅくなー
Frederick Buechner
(1926―2022)
ニューヨーク市生まれのアメリカの小説家、長老派教会牧師。第二次世界大戦に従軍ののち、1948年プリンストン大学卒業。1958年ユニオン神学校卒業。同年結婚、2女1男がある。1950年『ある長い一日の死』で「失われた世代」以後の、社会問題よりも、狭い人間関係を凝った文体で描く新人として登場した。『季節の違い』(1952)ののち、『アンセル・ギブスの帰り』(1958)では、前2作を離れた、飾らない文体で、より広い視野をみせた。『ライオンの国』(1971)、『オープン・ハート』(1972)、『愛の饗宴(きょうえん)』(1974)、『宝探し』(1979)の四部作は、『ベブの本』(1979)としてまとめられ、代表作である。これは、人間の欠陥と信仰を諷刺(ふうし)的に扱った人間喜劇。人間の下劣低俗と神が同居する矛盾複雑さをユーモアをもって作品化し、特異な小説領域を確立した。12世紀アングロ・サクソンの聖者ゴドリックを描いた『ゴドリック』(1980)も秀作で、聖なるものと人間の卑劣なものとを巧みな人物描写で笑いをもって書いている。瞑想(めいそう)録『大いなる敗北』(1966)、『飢えたる闇』(1968)ほか、自叙伝『聖なる旅』(1982)、『今昔』(1983)も小説世界と同じ基盤にたっている。ビュクナーは、ハーバード大学、エール大学等いくつかの大学や神学校の講師を務めたことがあり、原稿類は、プリンストン大学が収蔵している。
[稲澤秀夫]