人間喜劇(読み)ニンゲンキゲキ(英語表記)La comédie humaine

デジタル大辞泉 「人間喜劇」の意味・読み・例文・類語

にんげんきげき【人間喜劇】

原題、〈フランスLa Comédie humaineバルザック自作小説九十数編に付けた総題。風俗研究・哲学的研究・分析的研究の3部に大別大革命直後から二月革命直前までのフランスの完全な社会史を企図したもの。ダンテの「神曲」(原題「神聖喜劇」)に対してつけられた題。

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精選版 日本国語大辞典 「人間喜劇」の意味・読み・例文・類語

にんげんきげき【人間喜劇】

(原題La Comédie humaine) バルザックが自作の全小説作品につけた総題。九一編の長短編が含まれる。一九世紀のフランス社会を、人間社会の歴史ともいうべき規模で描き出したもの。ダンテの「神聖喜劇」(神曲)に対比させて名づけられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「人間喜劇」の意味・わかりやすい解説

人間喜劇 (にんげんきげき)
La comédie humaine

フランスの小説家バルザックの作品で,彼が自分の小説に与えた総称。《風俗研究》《哲学研究》《分析研究》の3部よりなる。このうち《風俗研究》が最も多数の作品を含み,《私生活情景》《地方生活情景》《パリ生活情景》《政治生活情景》《軍隊生活情景》《田園生活情景》の六つの〈情景〉からなる。《人間喜劇》が,構造化された体系として考えられていたことは明らかであるが,この体系は初めからあったものではなく執筆の過程で徐々に形成された。バルザックの小説が,作品群として最初にまとまりを見せたのは,1830年刊の《私生活情景》においてであった。次いで,33年から37年にかけて《19世紀風俗研究》全12巻が刊行され,《人間喜劇》の構想にかなり近いものがすでに見られる。そして42年から48年にかけて,初期習作を除くすべての小説が,分類され体系化されて,《人間喜劇》という総題のもとに刊行された(16巻,補巻1)。この総題は,ダンテの《神曲La Divina Commedia》に暗示を受けたといわれ,comédieは単に〈劇〉の意であって〈喜劇〉の意味ではない。

 作者の意図については,《人間喜劇》第1巻に付された総序文に述べられている。すなわちバルザックは,自然界に動物学上の種があるように,人間にも〈社会的種属〉があると考え,それら〈社会的種属〉のすべてを描き,19世紀社会をそれ自体において再現し,かつて歴史家によって書かれたことのない風俗の歴史を完成するのだという。総序文に述べられたところを,1834年10月26日付けのハンスカ夫人あて書簡によって補うならば,バルザックは,《風俗研究》においては〈社会的結果〉を,《哲学研究》においては〈原因〉を描こうとし,さらに,《分析研究》においては〈原理〉を明らかにしようとした。《分析研究》において,作者は,小説によってではなく理論の形で,〈原理〉を究明しようと望んだようであるが,その意図はほとんど実現されず,《分析研究》は,《人間喜劇》中の未完成な部分である。

 《人間喜劇》は,全91編の作品からなるが,そのうち最も早い時期に書かれたのは《ふくろう党》で,執筆年代は1828-29年,最後に書かれたのは《現代史裏面》第2部で,執筆時期は47年。《人間喜劇》はおよそ20年を要して書かれたことになる。また,登場人物総数は約2000人で,そのうち,繰り返し異なった作品に登場する,いわゆる〈再出人物〉は573人である。〈人物再登場〉に関するこの技法は《ゴリオ爺さん》(1835)以後体系的に適用され,技法上の重要な基礎をなしている。時代背景についていえば,大部分の作品は,王政復古時代(1814-30),およびルイ・フィリップ王政時代(1830-48)に関するものである。《人間喜劇》は,19世紀フランスの市民社会に関する雄大な壁画であり,小説の形をとった大年代記であるといえよう。
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百科事典マイペディア 「人間喜劇」の意味・わかりやすい解説

人間喜劇【にんげんきげき】

バルザックの一群の小説の総題。19世紀フランスの社会史となるようにとの意図のもとで書かれた長短91編からなる。1833年に計画されたが,それ以前の作品を含み,1845年の途中計画では143編になる予定だった。人間の情熱の諸相としての社会を描く《風俗研究》,個性化された類型を描く《哲学研究》,その原理を探究する《分析研究》の3部に分かれ,風俗研究はさらに,《私生活情景》(《ゴリオ爺(じい)さん》),《地方生活情景》,《パリ生活情景》(《従兄ポンス》),《政治生活情景》,《軍隊生活情景》,《田園生活情景》の6情景に細分される。また,同一人物を複数の作品に登場させることで《人間喜劇》全体に統一性と奥行きを与えている。
→関連項目ルーゴン・マッカール

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人間喜劇」の意味・わかりやすい解説

人間喜劇
にんげんきげき
La Comédie Humaine

フランスの作家オノレ・ド・バルザックのほとんどすべての小説を包含する連作の総合的題名。 91編から成る。ダンテの『神曲』 Divina Commediaをふまえて名づけたもの。作者はここにおいて,風俗,政治,経済など社会の諸相を描き,人間と社会の総合的研究を目指した。「風俗研究」「哲学研究」「分析的研究」の3つの系列に分類されるが,いずれも強烈な個性をもった人物たちが現れ,社会のさまざまな姿が浮彫りにされている。『ふくろう党』 (1829) 以下,おもな作品は『ウジェニー・グランデ』 (33) ,『絶対の探求』 (34) ,『ゴリオ爺さん』 (35) ,『谷間の百合』 (36) ,『幻滅』 (43) ,『従妹ベット』 (47) ,『従兄ポンス』 (48) など。

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旺文社世界史事典 三訂版 「人間喜劇」の解説

人間喜劇
にんげんきげき
La Comédie humanie

フランスの作家バルザックが自作の大部分に体系的に付した総題
ダンテの『神曲』(神の喜劇)に対抗したといわれる。『ゴリオ爺さん』など約90編。19世紀前半のフランス社会がみごとに描かれ,近代小説の大金字塔でもある。

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世界大百科事典(旧版)内の人間喜劇の言及

【バルザック】より

…《ふくろう党》は,ブルターニュ地方の反革命的反乱を扱っており,歴史小説の手法を近い過去に適用したものといえる。次いで《ウージェニー・グランデ》(1833),《ゴリオ爺さん》(1835),《谷間のゆり》(1836),《幻滅》(1843),《従妹ベット》(1846),《従兄ポンス》(1847)などの作品を次々に発表し,42年から48年にかけて《人間喜劇》16巻,補巻1を刊行した。これは,初期習作,劇作,雑文,《風流滑稽談》などを除き,《ふくろう党》以後のすべての小説を,一種の全集としてまとめたものである。…

※「人間喜劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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