日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビルマ系諸族」の意味・わかりやすい解説
ビルマ系諸族
びるまけいしょぞく
Burman
シナ・チベット語族に属するビルマ語を母語とする人々。ビルマ人のほか、アラカン人、タボイ人、タウンヨウ人、ダヌ人、インダー人、ヨー人などがいる。ビルマ人は9世紀中ごろ、北方からイラワディ川中・下流域に進出し、ビルマの諸王朝をつくってきた。大多数は上座部(小乗)仏教徒で、水稲耕作を営む。ベンガル湾沿いのアラカン地方に住むアラカン人は、ビルマ人と分かれてこの地方に進出した人々である。彼らは生業や宗教の面でビルマ人と同じだが、ベンガル地方に隣接する所にいるので、早くからインド文化、15世紀からイスラム文化の影響を受け、独自の政治的、文化的領域を形成している。今日ミャンマー(ビルマ)連邦内のアラカン州の大多数を占める。彼らの言語はビルマ語の一方言で、その古い形をもつとされる。同様にビルマ語の方言をもつ民族に、タニンタリー(旧テナセリム)地方のタボイ人、シャン高原のタウンヨウ人、ダヌ人、インダー人、チン山地東麓(ろく)のヨー人などがいる。彼らは少数の集団であるが、独特の文化をもつ。タウンヨウ人にはカレン系の文化、ダヌ人、インダー人にはシャン文化の影響がみられる。インダー人は、湖の沿岸に居住し、水上の家屋、菜園をもち、船を交通手段とする。彼らの片足漕(こ)ぎも特徴的である。ヨー人は畑作を生業とする。
ビルマ語系言語には、マル、ラシ、アツィ諸語がある。いずれもミャンマーのカチン州北東部、中国との国境沿いに居住する。文化的にカチン人に同化しており、共通語にカチン語を用いる。国境を挟んで分布するマインター(中国名阿昌=アチャン)人も、ビルマ系言語をもつが、シャン文化の影響が強い。大工・鍛冶(かじ)職人として有名で、冬の間シャン州へ出稼ぎに行く。バングラデシュとミャンマーの国境付近に住むマルマ人も、ビルマ系言語を話す。なおイラワディ川上流のカドゥ人は、かつて北からビルマ人を脅かした民族であるが、今日文化的、言語的にビルマ人に同化している。
[田村克己]