日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビルマ語」の意味・わかりやすい解説
ビルマ語
びるまご
ミャンマー(ビルマ)の公用語。ビルマ文字で表記され、約3200万人の話し手がいる。
[西田龍雄]
構造特徴
子音34、母音5(a, i, u, e, o)のほか二重母音4種(ai, au, ei, ou)がある。声調言語で、たとえばca(チヤー)(低平型)「蓮(はす)」、câ(高平型)「虎(とら)」、cà-de(高降型)「落ちる」の3種の対立があるほか、いわゆる入声(にっしょう)にあたるca(高平型)「ルビー」、cai-te(高降型)「好く」が認められる。単音節語を主体とするが、多音節語も多い。語順は主語・目的語・動詞の型をとり、名詞は格助詞を伴う。形容詞は名詞のあとにつくが、助詞を加えて前に置くこともできる。たとえば、「白い馬」は、myîn byu「馬←白」でもphyu-de myîn「白い→馬」でも可能である。時制などは、動詞のあとに助動詞をつけて表現する。「行く」wa-de、「行った」wa-bi、「行くだろう」wa-me。助数詞が使われ、「一枚の紙」は、紙・一・枚のように、名詞・数詞・助数詞の順に置かれる。敬語表現もある。語彙(ごい)には、パーリ語、モン語からの借用語が豊富で、雅語とみなされ、近年は英語が多く入っている。また、cà-de「落ちる」対chà-de「落とす」のように、自動詞と他動詞あるいは使役動詞とを、初頭の無気音と出気音の対立で弁別する手段も使われる。
[西田龍雄]
方言
五大方言に大別される。〔1〕中央部方言(ヤンゴン、マンダレー)、〔2〕南西部方言(アラカン)、〔3〕南東部方言(タボイ)、〔4〕東部方言(インダー)、〔5〕西部方言(ヨー)。このうち〔2〕〔3〕は、古い形式をいまなお口語として保存していて重要である。
[西田龍雄]
歴史
最古の碑文は、1112年のミャゼディー碑文(四面の石柱で、ほぼ同一の内容がビルマ語、パーリ語、モン語、ピュー語で刻まれている)であるが、それ以降現代語に至るまでの歴史の研究は、パガン時代につくられた多くの碑文や14世紀以降に出現する文学作品(散文・韻文)を通して可能であり、主要な点は判明しているが、語彙・文法の面でまだ十分な研究が進んでいない。ペーザー(貝多羅(バイタラ)文書)やパラバイ(折り畳み写本)に記録される仏教経典や文学書はじめ多量の文献が残されている。
[西田龍雄]
系統
チベット・ビルマ語派のなかのビルマ・ロロ語群のビルマ語系に属し、ビルマ北部から中国雲南省に分布するマル語(浪速(ランス)語)、ラシ語(拉期(ラチ)語)、アツィ語(載瓦(ツアイワ)語)と近い。また、彝(イ)語系などの言語と規則的な対応を示していて、チベット・ビルマ比較言語学においてビルマ語の果たす役割は大きい。
[西田龍雄]