日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェイェシュ」の意味・わかりやすい解説
フェイェシュ
ふぇいぇしゅ
Fejes Endre
(1923―2015)
ハンガリーの作家。中学卒業後、初め洋裁師の見習となり、次に旋盤を学ぶ。第二次世界大戦中に両親を亡くし、パリのルノー工場で働くなど、西欧各地を旋盤工として放浪。1949年に帰国し、1955年まで旋盤工として働く。最初の短編集『嘘(うそ)つき』(1958)で、子どもの世界をノスタルジックに、また工場労働者として働く若者たちを、簡潔に暖かく描きだし、注目を浴びた。中編『くず鉄墓場』(1962)は、ある殺人事件で加害者と被害者の両方を出したブダペストの労働者一家の歴史を、第一次大戦にまでさかのぼって描き、ベストセラーになった。短編集『陽気な埋葬』(1966)でも社会の底辺で不器用に生きる庶民をユーモアをもって描いた。『チェレペシュ・マルギットの結婚』(1972)などの戯曲でも同様な庶民像を取り上げている。その他、年金生活者の孤独や、上司に身を任せて昇給や住まいを手に入れる若妻などを描いた短編集『貧しいビバルディ』(1992)などがある。
[岩崎悦子]
『工藤幸雄編訳『最新ハンガリー短編集』(1966・恒文社)』▽『羽仁協子訳『くず鉄墓場』(『ブダペストに春がきた』所収、1971・恒文社)』▽『岩崎悦子編訳『トランシルヴァニアの仲間 ハンガリー短編集』(1997・恒文社)』