フランスの作家。ペリグーに生まれる。作家バルベー・ドールビイBarbey d'Aurevilly(1808―89)の感化でカトリックに改宗。パリの街娼(がいしょう)との神秘的な共棲(きょうせい)生活を縦糸とし、聖書の秘教的解釈を軸とする歴史観を基底に、同時代の教会と文壇を痛罵(つうば)した小説『絶望した男』Le Désespéré(1886)は、カトリック復興の起爆剤となった。彼の歴史観の主題はキリストの受難を原点とする苦悩であり、この主題は第二の自伝的小説『貧しい女』(1897)のなかで、苦悩の可換性というカトリック的秘義の一変奏として深化され、評論『ユダヤ人による救い』(1892)、『貧者の血』(1909)などのなかでも敷衍(ふえん)されている。ほかに『常套句(じょうとうく)釈義』Exégèse des lieux communs(1902)をはじめとする数多くの評論、怪異談的短編集『血の汗』(1893)、『恩知らずの乞食(こじき)』Le Mendiant ingrat(1898)を含む表題付きの日記八冊など。孤高の作家だったが、直接にはジャック・マリタン夫妻や画家ルオーに、間接にはベルナノスやジュリアン・グリーンの作品に深い影響を与えている。
[渡辺義愛]
『田辺貞之助訳『絶望者』(1984・図書刊行会)』▽『水波純子訳『貧しき女』(1982・中央出版社)』
フランス中部、ロアール・エ・シェル県の県都。人口4万9171(1999)。パリの南西177キロメートル、ロアール川右岸に位置する。6世紀以来の伯爵領で、ルイ12世により王領となり、16世紀から王家が好んで居住した。ロアール川沿いに建つブロア城は、歴代の領主の増改築(13~17世紀)により、ゴシック、ルネサンス、古典と三つの建築様式が同時にみられる。司教区が置かれ、サン・ルイ大聖堂(17世紀)、ロマネスク・ゴシック様式のサン・ニコラ教会などが残る。16世紀、三部会が二度当地で開催された。アンリ3世によるギーズ公アンリ暗殺事件(1588)の場所としても有名。従来からの行政・商業機能の強化に加えて、ロアール川城巡りの中心地としての観光地化、機械、電気機械、印刷、チョコレート製造などの工業化によって、人口が増加した。
[高橋伸夫]
フランス中部,ロアール・エ・シェール県の県都。人口5万2000(1990)。パリの南西約177km,ロアール川右岸の高台にそびえる。ブロア城を中心に発達した城下町で,この地方の行政,商業,観光の中心である。現存するブロア城の最古の部分は13世紀に造営された三部会室とフォア櫓である。その周辺に,ゴシック様式からルネサンス様式への過渡期のルイ12世翼棟(1498-1503)とサン・カレ礼拝堂(1498-1503),ルネサンス様式のフランソア1世翼棟(1515-24),古典主義様式のガストン・ドルレアン翼棟(1635-38)などが隣接して建てられており,中世から近世までの建築史博物館の様相を呈している。宮廷が置かれていたことのある城内では,フランソア1世翼棟の2階のカトリーヌ・ド・メディシスの隠し戸棚や,3階のギュイーズ公暗殺の場などがとくに名高い。その他市中にはサン・ニコラ教会やアリュイ館など古い建物が残る。おもな産業にはチョコレート,機械,電気機器の製造,印刷がある。
執筆者:稲生 永
フランスの作家。エルネスト・エロの感化で激越なカトリシスムを標榜。評論《こわし屋の言葉》(1884),自伝的小説《絶望した男》(1886)により,末期的症状を呈していた自然主義と同時代の凡庸な聖職者たちを痛罵。キリストの受難を歴史の中心にすえる苦悩観は第2の長編小説《貧しい女》(1897)にも引き継がれる。聖霊による第三の統治を説いて異端の臭いを放つ《ユダヤ人による救い》(1892),ユイスマンスやブールジェを批判した《教会の最後の柱》(1903),ナポレオンを聖霊になぞらえた《ナポレオンの魂》(1912)などのほかに,《恩知らずの乞食》(1898),《絶対の巡礼者》(1914)などの表題をもつ日記8巻がある。
執筆者:渡辺 義愛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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