劇場用語。舞台と観客席を隔てる額縁状の構築で、17世紀初頭、G・B・アレオッティの設計したパルマの宮廷劇場ファルネーゼ座に設けられたのが最初である。しかし仮設のものは、これに50年ほど先だって、やはりイタリアの宮廷劇場において用いられている。プロセニアムの呼称は、当時のイタリアで古代ギリシアの用例に倣って、舞台をプロスケネ(古代ギリシア劇における楽屋スケネの前方の意)とよんだことに由来する。
プロセニアム・アーチによって観客席と切り離された舞台空間は、精緻(せいち)な照明や装置による特殊な空間の創出が容易で、その追求は室内をリアリスティックに再現する19世紀の写実主義演劇の上演で頂点に達した。しかし20世紀初頭以降、演劇の原初的な感動を取り戻そうとする立場から、この撤廃が強く主張され、その結果、相変わらず観客席と舞台が相対しつつも、プロセニアム・アーチが両者を強くくぎることのない劇場が多くなっている。
[横山 正]
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…歌舞伎の舞台は,あたかも一幅の絵巻物を見るかのように横長であり,さらに花道をもつことによって,視覚形式の横の流動性が強調され,観客席と演技者のあいだに交流が生まれる。それに対して,オペラの舞台は,舞台前縁に構えられたプロセニアム・アーチが額縁の役割を果たす画面にたとえることができよう。そこで重視されるのは,横の広がりだけでなく縦の広がりと奥行きであり,立体性である。…
…現存する最古の例は,イタリアのパルマにあるテアトロ・ファルネーゼTeatro Farnese(1618年,アレオッティGiovanni Battista Aleotti設計,1628開場)である。これはすでにそれ以前の劇場にも見られた遠近法に従う背景を採り入れただけでなく,この背景を転換可能なものにし,さらに舞台と客席の境に,舞台をかこむ額縁の役割を果たす,装飾を施した恒常的なプロセニアム・アーチproscenium archをすえた。客席が舞台をとりかこむという構造をもつ張出舞台の場合には,舞台と観客の関係は観客の位置に応じて変化する。…
… ルソーが生きた18世紀は,ヨーロッパの各地に巨大なオペラ劇場をはじめとする常設劇場が続々と建設された時代だった。それまでの満足な屋根や壁もない中世的な劇場に代わって,厚い石の壁や天井によって外界から遮断され,その内部がさらにプロセニアム・アーチによって舞台と客席とに2分割された〈近代劇場〉が新たに登場する。それはまたたくまにヨーロッパ全土を席巻し,19世紀には,ヨーロッパ列強の帝国主義的拡張にともなってアジアやラテン・アメリカなど,非ヨーロッパ世界にまで広がっていった。…
…しかし,それらの混沌とした形態のなかにも現代の舞台美術独自の傾向や表現を認めることができる。それは,プロセニアム・アーチ(舞台の額縁)を通して絵を見るような舞台を放棄して,舞台と観客とが直接的に結びついていた,かつての劇場形態に戻ろうとする動きである。古代ギリシア劇場やイギリスのエリザベス朝の劇場,日本の能舞台などには,いわゆるプロセニアム・アーチはなく,緞帳(どんちよう)幕も存在しなかった。…
※「プロセニアムアーチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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