知恵蔵 「ベネチア水没危機」の解説
ベネチア水没危機
ベネチアは、潟に木のくいを打ち込み、その上に石材で土台をつくって築かれたため、海抜が低く、しばしば高潮によって街が冠水する。街の独特な構造による地盤沈下も浸水被害を深刻化させている。住宅に浸水被害が出る110センチメートル以上の高潮は、1980年代は年平均2.6回発生していたが、2017年までの10年間で、年平均8.2回に上った。浸水被害の影響で、40年前に約10万人だった旧市街の人口は、約5万人に半減した。
19年11月12~13日には、大雨などが続いたことも影響し、最高水位187センチメートルに達する記録的な高潮が発生。1966年の194センチメートルに次いで観測史上2番目に高い水位で、ベネチアのルイジ・ブルニャーロ市長は、市内の85%が浸水したと発表した。最も標高の低い場所にあるサンマルコ寺院の柱や建物が浸水するなど、被害総額は、日本円で数百億円に上るという。イタリア政府は2019年11月14日、非常事態宣言を発令。復興支援として2000万ユーロ(約24億円)を拠出することを承認した。
防潮対策として、ベネチアは03年から、可動式の巨大水門の設置など大規模なプロジェクトを始めた。潟と海の境にある3地点4カ所の水路に沈めた巨大な扉が、高潮の際には起き上がって水路の入り口をふさぎ、水位上昇を抑える取り組みだが、当初の見込みを超える大幅な工費の増加や汚職などの影響で、工事が遅れている。
(南 文枝 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報