岩石の原体そのまま、あるいは種々の加工を施して、土木および建築用の材料として利用されるもの。石碑、庭石、美術工芸品などに利用されるものを含めることがある。土木用材では強度と風化に対する抵抗力が大であることが要求され、建築用とくに装飾用材では外観や耐火度が重要な要素となる。日本では現在は日本産よりも、イタリアをはじめ韓国、インド、オーストラリアなど諸外国の石材が各地で多く使われている。
[斎藤靖二]
人間と岩石とのつながりは深く、石の利用の歴史は石器時代までさかのぼる。種々の岩石で石器がつくられているが、石材としては巨石記念物がその古い例として知られている。この巨石記念物、墓石への利用から、やがて人間は岩石を切り取って石材をつくる方法をみいだし、時の権力と結び付いて石材文化は発展した。紀元前2000年ごろには、エジプトでピラミッドが建設されており、古代インドやインカ帝国などにも巨大な石造記念物をみることができる。ギリシア、ローマなどの神殿や彫刻、中世の教会建築などにみられるように、民族の歴史はその生活の場であった建造物の石材に刻み込まれて残されている。現在では大きな建築物、ダム、鉄道、港湾などをはじめ、石碑、墓石、石塀、砥石(といし)や各種の工芸品に至るまで、その利用は広範囲にわたっている。
民族の生活様式、風土の違いは、そのまま石材の利用の仕方にも現れ、日本では古墳の墳丘や石棺に使われたり、奈良時代のころに仏壇や仏の台座に石材が使用された例があるが、建築にはほとんど利用されなかった。城郭、神社、仏閣の建築などの発展とともにその利用は広まったが、土木、建築に本格的に利用されるようになったのは、ヨーロッパ文化が入ってきた明治以後のことである。日本のように地震の多い所では、規模の大きい石造建築は構造的に不利である。石材は構造用よりはむしろ装飾用の建築材料として使われることが多く、そのため美観が重要視される傾向がある。
現在では大理石や花崗(かこう)岩などの砕石を、混和粘着剤としてセメントを用いて固めてつくったものも広く使われている。これはテラゾーterazzo(人造石)とよばれるもので、天然のものに比べて値段が安く、大きさや色が自由になり、ある程度天然の岩石の状態を表現できるため、その利用は盛んになった。
[斎藤靖二]
ほとんどの種類の岩石が石材として利用されている。石材には、岩石のもつ特性、外観あるいは用途別に基づいて、それぞれ通称があって、一般にその通称でよばれている。
(1)花崗岩類 花崗岩や花崗閃緑(せんりょく)岩などの酸性深成岩類で、普通、御影石(みかげいし)とよばれている。一般に粗粒で、その組織には方向性がなく、色は白色から淡紅色で硬くて美しく、耐久力大である。割れ目が少ないので大材を得やすく、また産出量も豊富なので、磨いて建築の装飾用張付け石として利用されている。土木用として敷石や堤防、橋などにも利用されるほか、石碑や墓石などにも使われ、石材のなかではもっとも重要なものである。花崗岩類を構成している石英と長石の膨張率が異なるために、耐火度の小さいことが欠点である。代表例として稲田(いなだ)御影、塩山(えんざん)御影、本御影、徳山御影(黒髪御影)、万成(まんなり)石、北木(きたぎ)御影、小豆(しょうど)御影などがあげられる。
(2)閃緑岩・斑糲岩(はんれいがん) 花崗岩類に比べて有色鉱物が多く、色指数が大であるため色調は暗色になる。そのため、普通、黒御影とよばれている。組織は一般に粗粒で方向性はない。分布が限られ産出量が少なく、大材は得られないが、落ち着きのある美しさをもち、墓石や装飾用建材として利用されている。代表例として折壁(おりかべ)御影、浮金(うきがね)石、三春(みはる)石などがある。
(3)蛇紋(じゃもん)岩類 蛇紋岩や橄欖(かんらん)岩は黒っぽい緑色で、きめが細かく、磨き上げると美しい。橄欖岩の変質したものは竹葉石(ちくようせき)とよばれている。風化作用に対して弱く、また分布が限られているために産出量が少ない。したがって室内装飾用建材や工芸品などに利用されることが多い。代表例として竹葉石や貴蛇紋などがある。蛇紋岩のなかで方解石脈が不規則な網目状に入っているものを蛇灰岩といい、大理石の名でよばれることがある。
(4)安山岩類 日本では安山岩からなる火山が多く、その分布も広いため、石材としての利用度は大きい。一般に深成岩類よりも耐火性が強い。板状節理や柱状節理が発達していることが多く、採石しやすいが大材は得られない。代表例としては小松石、横根沢石、鉄平(てっぺい)石、須賀川(すかがわ)石、根府川(ねぶかわ)石などがある。
(5)凝灰(ぎょうかい)岩 凝灰岩も分布の広い岩石で、とくに新第三紀のものは他の岩石に比べて軟らかく、採取や加工も容易であるため、石塀などに広く利用されている。吸湿性が強く、かなり耐火性も強いため、構造材として倉庫や石蔵などに使用される。凝灰岩の石材としては、栃木県宇都宮市の大谷石(おおやいし)がもっとも有名である。大谷石は普通、淡緑色、多孔(たこう)質で、「みそ」とよばれる暗緑色から褐(かっ)色の斑点(はんてん)がみられる。ほかに、院内石、院南(いんなん)石、秋保(あきう)石、長岡青石などがある。
(6)砂岩 砂岩は主として古生代、中生代のものが使われ、石垣、土台、墓石、砥石などの小規模な用途が多く、まれに建築材料として利用される。代表例として日出(ひので)石、多胡(たこ)石、銚子(ちょうし)石、和泉(いずみ)砂岩、来待(きまち)石などがある。
(7)粘板岩(スレート) 古生層および中生層のなかの粘板岩はきめが細かく、ほとんど水を吸収しない。また薄く割れやすい性質があるので、それを利用して屋根瓦(がわら)、石碑、硯(すずり)、砥石などに用いている。代表例として井内石、女川(おながわ)石、雨畑(あめはた)石、赤間石などがある。弱変成を受けた凝灰岩も、粘板岩と同様に利用されることが多い。
(8)石灰岩(大理石) 大理石は普通、石灰岩が変成作用を受けて再結晶したものをさすが、装飾用建材として使われる石灰岩は、変成していなくてもすべて大理石とよばれている。大理石の語源は、中国雲南省の大理府の地名に由来する。主成分は炭酸カルシウムで比較的加工しやすく、磨くと美しい光沢や模様を示すことが多い。雨水の風化作用に対して弱いので、室内装飾用建材、工芸品や彫刻などに用いられる。日本ではわりあい産出量の多い岩石で、そのほとんどが石炭紀からペルム紀(二畳紀)のものである。種類も、化石を含むものから、角礫(かくれき)岩状の更紗(さらさ)とよばれるものなどいろいろのものがあって、色調も灰色、黒色、紅色、緑色など多彩である。イタリアのカッラーラやギリシアのアテネなどからの輸入品があるほか、国内では叢雲(そううん)、白雲、貴蛇紋、更紗、渓流、岩永更紗、八重桜、若狭(わかさ)大理石など多数の銘柄が知られている。このほか、沖縄県には、淡褐色で多孔質の琉球(りゅうきゅう)トラバーチンがあり、瀬底(せそこ)島その他で採石されている。
(9)片麻岩・結晶片岩 外国産の片麻岩が輸入され、広く利用されているが、日本産の結晶片岩も古くから使われてきた。とくに四国から関東地方にわたって分布する三波川(さんばがわ)変成帯の中で、緑色地に白っぽい縞模様の発達したものは、三波石として石碑や庭石に使われている。
[斎藤靖二]
規格では5立方センチメートルの岩石の耐圧強度が5トン以下のものが軟石(凝灰岩など)、15トン以上のものが硬石(安山岩、花崗岩、大理石など)、その中間のものが準硬石(砂岩、安山岩など)に分けられている。耐火度は安山岩や凝灰岩が高く約1200℃、大理石は800℃前後で生石灰となり、花崗岩や砂岩などは約600℃である。また耐久年数は花崗岩や安山岩で200年、粗粒大理石や砂岩などが50年といわれる。形のうえからは用途の違いにより、板形、四角形、角錐(かくすい)形、丸形、角棒形などがある。従来は一切れ(1立方尺)を単位として売買されていたが、現在では土木・建築用石材についての日本産業規格(JIS(ジス))が定められている(JIS A5003)。
[斎藤靖二]
石材は普通、露天掘りで採石されるが、軟石では垣根掘りという坑道掘りもなされる。硬石の採石には、火薬を使う鉄砲割(わり)、穿孔(せんこう)機を用いるきりもみ法、節理とくさびを利用する掘込(ほりこめ)法、穴をあけてくさびを打ち込む矢割(やわり)などの方法がとられる。軟石では、必要な寸法に従って溝(みぞ)を切り込み、次に底面にくさびを打ち込んで採石する切込(きりこみ)法がとられている。
[斎藤靖二]
かつて石材の加工は、まず原石に玄能(げんのう)で形をつけ、次にその表面を、のみとつちを使って仕上げていた(のみ切り)。それからハンマーの一種の「びしゃん」でたたき(びしゃん仕上げ)、さらに片刃または両刃を使ってたたく(こだたき仕上げ)。このあと砥石と水を使って磨き(水磨き)、最後につや出し粉をつけたフェルトで磨いてつや出しをした。現在では、切断から研磨まで機械で行われるようになり、装飾用建築材料のように平らなものは、工場でダイヤモンド・ソー(細かなダイヤモンド粒子を入れた合金で縁(ふち)を取り巻いた円盤状の鋸(のこぎり)。ワイヤー状のものもある)を用いて切られ、研摩も機械で自動的になされている。
[斎藤靖二]
日本の石材がもっとも多量に、またもっとも多種類使用されている例としては国会議事堂をあげることができる。1887年(明治20)にその建設が決定されたとき、工事の材料に国産の石材が使用されることになった。外装には花崗岩、内装には大理石を使うことになり、全国的に調査された。その結果が今日の石材工業の基礎となっているといえる。多量に採掘できて落ち着いた色調という条件で、議事堂1階の腰回りには山口県蛙島(かえるじま)産の蛙島石、黒髪御影を使い、2階以上には広島県安芸(あき)郡倉橋島産の尾立(おたち)石が使われた。その所要量は約34万切れといわれる。内部装飾に利用された大理石は37種類にも及び、紫雲(岩手県)、茨城白(茨城県)、貴蛇紋(埼玉県)、紅葉石(静岡県)、オニクス(黒部峡谷)、黒柿(くろがき)(岡山県)、小桜、鶉(うずら)、霞(かすみ)、薄雲(以上山口県)、加茂更紗、時鳥(ほととぎす)、曙(あけぼの)、新淡雪、木頭(きとう)石(以上徳島県)、金雲(高知県)、金華(福岡県)、竹葉(熊本県)、黄竜(朝鮮)などをはじめ、沖縄のトラバーチンとよばれる石も使われている。その所要量は大理石約3万7000切れ、トラバーチン1万切れといわれている。また議事堂の周りの柵(さく)は、全部テラゾーによってつくられている。
現在は外国からの輸入量が増加し、広く利用されている。大理石の多くはイタリアからであるが、ほかにイラン、ポルトガル、スペイン、ドイツ、ギリシア、トルコなどから輸入されている。花崗岩は大半が中国からのものであり、ほかに韓国、南アフリカ、インド、カナダ、イタリアなどから輸入されている。
[斎藤靖二]
『中江勁編『石材・石工芸大事典』(1978・鎌倉新書)』▽『応用岩石事典編集委員会編『応用岩石事典』(1986・白亜書房)』▽『鷹村権編著『建築学及び岩石学から見た石材と都市美』(1990・松永書店)』▽『路川陽太郎著『建築石材の実際とテクニック――城積みから現代石張りまで』(1991・石文社)』▽『東洋マーケティング編・刊『市場調査研究レポート 建築石材研究調査資料集』(1992)』▽『上山正二著『図解 石材工事の実際』(1992・オーム社)』▽『小林恒己・多田宏行・藤田晃弘著『修景石材と舗装』(1994・技報堂出版)』▽『岡田清・明石外世樹・小柳洽編『土木材料学』(1998・オーム社)』▽『工藤晃・大森昌衛・牛来正夫・中井均著『議事堂の石』新版(1999・新日本出版社)』▽『奥田尚著『石の考古学』(2002・学生社)』
種々の加工を施して土木建築に使用したり,墓石,彫刻,装飾工芸品や,すずりやといしなどの実用品を製作したりして,人間生活のさまざまな分野で利用される岩石。量的にいえば土木建築用の利用が圧倒的に多い。自然石のまま庭石に利用したり,砂利を採取してそのままコンクリート骨材に使う場合のように,加工しない場合は普通は石材には含めない。
人類の歴史は石材の利用とともに始まったといっても過言ではない。当初の石材の利用は,いわゆる石器としての利用であり,このほか装身具や彫像などもつくられた。土木建築の面では,前3千年紀エジプトの神殿やピラミッドが石材の大規模利用の最初で,ギリシア,ローマを経て,石造建築の一つの頂点といわれる中世ゴシック教会堂の時代へと,西洋の石造文化は巨大な政治的,宗教的権力と結びつきながら発展していった。
日本では,明治以前には建築本体に石を利用することはなく,城郭,神社仏閣などの石垣や階段,あるいは礎石として使用されていただけである。明治になって洋風大建築の造営や,鉄道,港湾,橋梁など大土木工事がはじまるとともに,石材の需要は高まっていった。当初,土木用材としては,石積みで橋脚や護岸,防波堤を造るなど,構造材として利用されたが,鉄筋コンクリート技術の導入とともに構造材としての利用は激減し,代わってコンクリート骨材としての使用が急増した。このような骨材としては当初は川砂利の利用が一般的であったが,第2次大戦後の経済成長期には川砂利では需要を満たしえず,全国いたるところに砕石採取用の採石場が開かれ,クラッシャーの音が響くこととなった。
建築への利用では,洋風建築の導入期には石造はもとより,木造あるいは煉瓦造の一部に使う場合でも,石材は採石場で割られた割材に仕上げを施したものであって,重量も大きかった。したがって運搬手段が未発達であった当時としては,建築現場に近い採石場の材料に頼らざるをえず,御影石,大理石以外の材料も,むしろそのほうが軟質で加工しやすいので盛んに用いられた。大正から昭和にかけて鉄筋コンクリート建築が普及し,他方では石材加工の技術が進み原石を板に挽(ひ)くことが可能になると,利用される石材の形が,割材から単なる化粧目的の板材へ移り変わった。そのため,最終製品価格に占める原石費の比率が下がり,各産地間の競争がはじまった。また研磨方法の発達につれて,磨いて美しい光沢の得られる御影石と大理石とが特に重視されるようになった。このような過程の中で,特定の石の特に条件のよい生産地に生産の集中が進んでいった。
石の本場ともいえるヨーロッパでもこのような変化は同様に見られ,今日では,組積工法による石造建築の新造は行われなくなった。割材の利用は,古い建築の修理改装以外にはまず見ることはできない。採石,加工の分野でも国際的規模での生産の集中が徐々に進行し,イタリアが他国に大差をつけてリードする形になっている。
→石造建築
石材に求められる特性は,外観の美しさ,強度の大小,風化や熱に対する耐久性,採石や加工の難易などである。外観はその岩石を構成する鉱物の色,形,組成などによって変わり,仕上げ方法の相違によっても変化するが,いずれにせよ建築の仕上材として使用する場合はきわめて重要な要素である。ただし外観の重要性は利用目的によっても変わり,好みの相違も避けがたい。墓石用は建築用よりさらにきびしい制約があり,彫刻用石材,特に大理石に求められる条件はきわめてきびしい。反対に土木用材,特にコンクリート骨材には,外観の美しさなどまったく問題にならない。
強度の大小には単なる硬度のほか,曲げや圧縮に対する強度もあって複雑である。風化に対する耐久性にも,摩耗など物理的要素もあれば化学的変化に対する強弱もある。ある特性はよくても他の特性がきわめて悪いということは珍しくない。たとえば,軟質で吸水性の高い比重1.4前後の凝灰岩は,凍害や風害を受けやすいが,耐火性では1200℃の高熱に耐えられるのに,緻密で硬度の高い比重2.7前後の花コウ岩は600℃の熱で崩壊する。大理石は普通,花コウ岩より弱いと考えられているが,耐火性は強く,石灰化するには800℃の熱を要する。
採石や加工の難易は,経済性と直結するので最も大切な条件である。特に土木用材については,価格が決定的といえる。いずれにせよすべての条件にかなう石材はないので,それぞれの使用目的に応じて,それにふさわしい特性を備えた石材を選択しなければならない。
ほとんどすべての岩石が何らかの意味で石材として利用されはするが,以上のような条件をある程度満たし,古くから世界各地で石材として利用されてきた岩石は次のような種類である。
(1)花コウ岩 花コウ岩はきわめて普遍的な石材で,石質は堅く,耐火性は低いが風化その他の耐久性には強い。組織による方向性はなく,割れ目も少ないので大材をとることも容易であり,産出量も多い。土木建築全般に広く利用されているほか,今日では墓石材として広く使われている。日本における代表的な産地は茨城県笠間市稲田(稲田石),山梨県塩山,愛知県藤岡,瀬戸内海の家島,小豆島(小豆島御影),北木島(北木石),倉橋島(議院石),黒髪島など。日本の花コウ岩は一般に白色または桜色であるが,カリ長石を含み赤色を呈する花コウ岩も世界には多い。赤御影と呼ばれるその種の花コウ岩は原石の形で大量に輸入され,建築用に利用されている。花コウ岩と同じ深成岩に属する斑レイ岩は,有色鉱物を含み色調暗く,黒御影と呼ばれている。国内では福島県黒石山(浮金石),山口県須佐に産するがいずれも小規模であり,ほとんどが墓石材で建築用はもっぱら輸入材に頼る(〈御影石〉の項目参照)。
(2)安山岩 日本には大量に分布しているが,美しさや強度の点で花コウ岩に及ばず,おもに土木用の割りぐり石や砕石などに利用されている。安山岩には節理が発達し,板状節理に沿って薄くはげる長野県諏訪の鉄平石は,その外観の味わいから建築,特に住宅に広く利用されている。
(3)凝灰岩 火山国の日本には凝灰岩も多く,軟質で加工容易なため古くから利用されてきた。耐火性には富むが強度に劣るので,今日では栃木県の大谷石(おおやいし),兵庫県の竜山石(たつやまいし)を除き,ほとんどの産地が姿を消した。なお安山岩や凝灰岩の石材は,日本ではありふれているが,外国ではあまり使われていない。
(4)砂岩 日本では良質な砂岩を産せず,土木用材は別として,建築用としては輸入材以外にはほとんど使われていない。しかしヨーロッパやアメリカでは均質な良材を大量に産し,建築用石材としても大いに利用されてきた。特に教会など石造建築では,石灰岩,大理石と並んで多用されている。
(5)石灰岩・大理石・蛇紋岩 石灰岩のうち美しい色や模様を示すものや,それが変成作用を受けて再結晶した大理石は,石材の中で最も美しいものである。きめが細かいうえに硬度が低く加工しやすいので,古くから建築用および装飾用石材,彫刻用の材料として利用されてきた。純粋の大理石(結晶質石灰岩)は純白であるが,わずかに不純物を含むものは,緑,青灰,赤などの色彩や斑紋,縞などを呈する。世界的な産地はイタリアおよび地中海沿岸諸国で,日本もこれらの国々からの輸入に依存する。かつて有名であった岐阜県大垣市の赤坂大理石,山口県の秋吉大理石,茨城県の寒水石など国産の石の産額は,今ではゼロかきわめてわずかになってしまった。緑色の地に白の方解石の脈が網目状に入る蛇紋岩は,成因は異なるが装飾用石材として大理石の一種に扱われている。
(6)その他の岩石 このほか粘板岩や結晶片岩など,板状節理を持つ石の屋根材,敷石,張石としての利用は,外国では別に珍しくはないが日本ではまれで,宮城県の雄勝石(おがついし)がほとんど唯一の例である。この石はまた,すずり石としても利用されている。和歌山県の那智石は碁石に加工されるが,これも粘板岩である。
採石の方法は,その採石場の自然条件によって,また何を切り出すかによってさまざまである。土木用の砕石や割りぐり石の採石場はただ石を破砕すればよいのであるが,建材用,墓石用のブロック(角材)を切り出すにはそのための機械を必要とする。岩盤の天然の割れ目を最大限に利用して採石するのはもちろんであるが,割れ目のない岩盤を切るには,御影石の場合はジェットバーナーを,大理石の場合はワイヤソーを使う。前者は御影石の組成鉱物の熱膨張率の差を利用するもので,ノズルから噴出するガスを燃焼させて石に高熱を与え,結晶組織を破壊することによって岩盤に溝を作る。後者は撚(よ)った長い鉄線を石の表面に沿って一定方向に走らせながら,その接触面に水と砂を供給して切断する。近年はダイヤモンドチップをつけたワイヤソーやチェーンソーの使用も増加している。また岩石の種類を問わず,ドリルで平行な穴をうがち,〈矢〉と通称される楔(くさび)で割る伝統的方法も広く行われている。なお,ブロックを採る場合,火薬の使用は石に傷を与えるおそれがあるので,最低限に控えねばならない。こうして大割りされた石は,2~5m3のブロックに整形されて出荷されるが,岩盤自体の色目模様が一様ではなく,細かな天然の傷のある部分も多く,また切出しにあたって不整形に割れる場合もあり,良質の建材用,墓石用のブロックは,全採石量の10~30%程度,きわめて恵まれた条件のところでも40%までにすぎない。
土木建築の基礎工事に用いる割りぐり石や,道路舗装やコンクリートの骨材にする砕石などを専門にする採石場は,現在では日本のいたるところに開かれている。ブロックを主とする採石場でも,屑石は間知石(けんちいし)という石垣用の石材に割るとか割りぐり石を作るのに利用され,このような土木用石材が,日本でも外国でも量でいえば石材生産の大半を占めている。
建材用,墓石用のブロックは工場に運ばれ加工される。ブロックの切断にはダイヤモンドのこ刃のついた丸のこか,大のこと呼ばれる一種の枠のこで,数十枚ののこ刃を平行に張ったのこが使われる。大のこの刃は,大理石にはダイヤモンドチップが装着されたものが使われるが,御影石の場合はただの軟鉄の板であって,水と鉄砂の混合物を供給しながらのこ刃を前後に動かして切断する。石を切るというよりすり減らすと表現するほうが,むしろ事実に近い。切断速度は大理石の場合よりはるかに遅く,2cm/h程度にすぎないが,一度に何十枚という挽板が得られるので,化粧用板材が中心の建築用石材の工場では,大のこが昔も今も最も重要な機械となっている。
こうして得られた板は研磨工程に移され,荒ずりからつや出しに至る数種のカーボランダムその他のといしによって仕上げられる。墓石はもちろんのこと,建築の内装の壁はほとんどがこのような本磨き仕上げであるが,御影石外装や床に張る場合には,このほか,ジェット仕上げとかバーナー仕上げと呼ばれる粗面仕上げも広く用いられる。これは,採石場で岩盤を大割りする場合と同じく,熱によって結晶を飛ばし凹凸の面を得る仕上げ方法である。片面にこれらの仕上げを施された板石は,小型の丸のこで所定の寸法に切断されて建築現場に発送される。
かつて粗面仕上げの石は,採石場で所要寸法に割った石を,のみやつちでたたいて仕上げるのが普通であり,その粗さによって,のみ切り,つつき,びしゃん,小たたきなどの仕上げ方法があった。このように割材に手加工を施すことは,人件費の高騰した今日ではきわめてまれになってしまった。
天然石の砕石に砂やセメント,顔料などを混ぜ,水で練って硬化させたものを人造石という。一定寸法の板を工場で製作することもあり,現場で塗り込んで仕上げる場合もある。仕上げには本磨き,洗出しのほか,のみでつつく粗面仕上げなどがあり,自由な色が得られ,まったく均一のものを安価に早く造ることができる。テラゾーと呼ばれる大理石の種石を使って研磨したものは,大理石代用として建築に一時は大いに使用されたが,経済的に余裕が生まれると本物志向が強まって,テラゾーをはじめ人造石の使用は著しく減った。
執筆者:矢橋 謙一郎
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