知恵蔵 「ベルギー同時多発テロ」の解説
ベルギー同時多発テロ
22日午前8時すぎ、ブリュッセル郊外にある国際空港のアメリカン航空のカウンター付近で爆発が起こり、国際線出発ロビーが大破した。引き続きターミナルビルの玄関付近で2度目の爆発が起きた。更に、約1時間後には、欧州連合(EU)本部などが並ぶブリュッセル中心部に近い地下鉄マルべーク駅でも爆発が起きた。邦人2名も地下鉄駅の爆発に巻き込まれ、重軽傷を負っている。
ベルギーは狭小な国土ながら人口1千万を数え、国民はオランダ語系住民とフランス語系住民に二分される連邦国家を形成している。また、ブリュッセルの南西にあるモレンベークは、多くの移民者が居住し、約8割はイスラム系住民といわれる。15年11月のパリ同時多発テロの実行グループの多くが、モレンベークに居住していた。犯行グループ唯一の生き残りで、16年3月に逮捕された指名手配犯などもここに潜伏し、重火器などを隠匿していた。ブリュッセル国際空港で自爆した容疑者の1人は、ISに加わろうとしているところを15年夏にトルコ南部で拘束されている。ところが、同人はベルギー当局の監視対象者にはなっておらず、トルコ当局により送還されたものの、行方がつかめなくなっていた。こうした治安当局の不手際が批判を受け、司法大臣や内務大臣が辞意を表明する事態ともなった。
なお、このテロを受けEUの内相理事会は、危険人物に関する情報共有や、捜査協力の強化を改めて確認している。各国間の情報共有はパリのテロでもすでに求められていたが、自国の調査能力を他国に知られたくないなど、それぞれ機密に関する微妙な事情があり、各国間の信頼・協力関係は必ずしも確立されていないのが実情である。
(金谷俊秀 ライター/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報