下垂体前葉機能低下症

内科学 第10版 「下垂体前葉機能低下症」の解説

下垂体前葉機能低下症(視床下部・下垂体)

定義・概念
 下垂体前葉機能低下症は,視床下部下垂体茎,下垂体の障害によって下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモンACTH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),性腺刺激ホルモンゴナドトロピン;LH,FSH),プロラクチン(PRL),成長ホルモン(GH)の分泌が障害されることにより生じる.分泌が低下したホルモンの種類によって,ACTH分泌不全症,TSH分泌不全症,ゴナドトロピン分泌不全症,プロラクチン分泌不全症,成長ホルモン分泌不全症に分けられ,複数の下垂体ホルモン分泌低下がある場合は複合下垂体ホルモン分泌不全症となる.
分類
 下垂体前葉機能低下症の病型として,①病因による分類:腫瘍,分娩時大出血,炎症,外傷,先天性(遺伝子異常),自己免疫疾患,細胞浸潤,特発性など,②障害部位による分類:下垂体性,視床下部性,その他,③欠乏ホルモンの種類による分類:単独ホルモン欠損症,部分的下垂体機能低下症,汎下垂体機能低下症,がある.
原因・病因
 下垂体を直接障害する病変と視床下部を侵す病変がある.
 下垂体の器質的疾患として,女性では分娩時の大量出血に続発する下垂体梗塞が代表的であり,Sheehan症候群とよばれる.その他の血管性疾患に基づく下垂体壊死として,糖尿病,海綿静脈血栓症,外傷などがある.腫瘍性病変として多いのは非機能性下垂体腺腫である.その他,リンパ球性下垂体炎や結核などの慢性炎症・感染症,原因不明の特発性のものもある.
 視床下部障害の代表的疾患は頭蓋咽頭腫と胚(芽)腫(germinoma)がある.ほかにサルコイドーシス,Langerhans細胞組織球症,髄膜炎などがある.頭部外傷くも膜下出血によるものも報告されている.骨盤位分娩新生児仮死などの病歴がある例では下垂体茎断裂もある.
 まれではあるが,遺伝子異常(POU1F1遺伝子, PROP1遺伝子,LHX1遺伝子,HESX1遺伝子,TPIT遺伝子など)が原因となる先天性のものがあり,複合下垂体ホルモン分泌不全症を呈する.機能性視床下部病変は,ストレス,過度の運動,高度のやせや肥満を伴う栄養状態の変化,急激な環境変化,精神神経機能の変化などに伴って生じることがある.
 自己免疫性視床下部下垂体炎では,妊娠分娩に関連したリンパ球性下垂体前葉炎,中枢性尿崩症を主体とするリンパ球性漏斗下垂体後葉炎,前葉と後葉を同時に侵す汎下垂体炎が含まれ,自己免疫機序が想定されている.最近明らかにされたIgG4関連疾患に伴う漏斗下垂体病変の報告もある.
疫学
 2000年に行われた全国疫学調査では,成人下垂体機能低下症の1年間の受療患者数は男女あわせて約7000例と推計されている.原因疾患別では,視床下部下垂体領域の腫瘍性病変が半数以上を占めている(表12-2-4).
病態生理
 下垂体前葉の細胞は分泌予備能が大きいと考えられており,90%以上障害されてはじめて症状が出る.ほとんどが下垂体前葉ホルモンの分泌障害によるが,ホルモン構造異常,特異的受容体や作用機序の障害によっても下垂体前葉機能低下の臨床症状を呈する.視床下部性下垂体前葉機能低下症では,血中PRLは正常ないし高値を示す.下垂体の機能性腫瘍では,一部の下垂体前葉ホルモンの分泌過剰とほかの下垂体前葉ホルモンの分泌不全が併存することがある.
臨床症状
 分泌低下をきたした下垂体前葉ホルモンの種類と障害の程度によって種々のホルモン欠乏症状が出現する(表12-2-5).原疾患の発症時期によっても症状は異なる.
1)ACTH分泌不全:
副腎皮質機能低下の症状を示す.全身倦怠感,易疲労性,低血糖や低ナトリウム血症による意識障害,低血圧,食欲不振,悪心・嘔吐,下痢,体重減少,筋力低下,皮膚や毛髪の色素減少,陰毛や腋毛の脱落などが生じる.手術や感染を契機としてショック症状や意識障害が出現することがある(副腎クリーゼ).
2)TSH分泌不全:
甲状腺機能低下の症状を示す.成人では耐寒性の低下,皮膚の乾燥,便秘,浮腫,貧血,言語や動作の緩慢化,傾眠傾向や昏睡を生じる.乳児では精神や身体の成長障害を伴う.
3)LH,FSH分泌不全:
小児では,性成熟の障害により二次性徴が発現しない.原発性無月経(女子)や類宦官様の体型(男子)を示す.成人女性では,月経不順,無月経,腋毛や陰毛の脱落,乳房や性器の萎縮,成人男性では,性欲低下,勃起障害,睾丸の萎縮,腋毛や陰毛の脱落を示す.
4)GH分泌不全:
小児では均整のとれた成長障害や低血糖を生じる.成人では,皮膚の乾燥と菲薄化,体毛の柔軟化,体脂肪(内臓脂肪)の増加,除脂肪体重の低下,骨量の低下,筋力の低下があり,易疲労感,スタミナ低下,集中力低下,気力低下などの精神活動性の低下がみられる.
5)PRL分泌不全:
産褥期の乳汁分泌が低下する.
6)原疾患に基づく症状:
腫瘍性病変やリンパ球性下垂体前葉炎では,頭痛,視力・視野障害をきたすことがある.下垂体卒中では,急激な頭痛,悪心をきたし,眼球運動障害,意識障害を伴うことがある.視床下部の器質的疾患が原因の場合,尿崩症,体温異常,摂食異常などを生じる.
検査成績
1)一般検査:
軽度から中等度の貧血,低血圧,低血糖,電解質異常(低ナトリウム血症,高カリウム血症),脂質異常症,体脂肪量増加など種々の異常が認められる.
2)内分泌検査:
ACTH分泌不全の検査所見は,①血中コルチゾールの低値,②尿中遊離コルチゾールの排泄低下,③血中ACTHは高値ではない(血中ACTHは25 pg/mL以下の低値の場合が多い),④ACTH分泌刺激試験(CRH負荷,インスリン低血糖など)に対して,血中ACTHまたはコルチゾールは低反応ないし無反応を示す.視床下部性ACTH分泌不全症の場合は,CRHの1回または連続投与で正常反応を示すことがあるが,インスリン低血糖では反応がみられない.⑤迅速ACTH負荷に対して血中コルチゾールは低反応を示し,ACTH連続負荷に対して増加反応がある.
 TSH分泌不全の検査所見は,①血中TSHは高値ではない(視床下部障害で正常ないし軽度高値を示す),②TSH分泌刺激試験(TRH負荷など)に対して,血中TSHは低反応ないし無反応.視床下部性の場合は,TRHの1回または連続投与で正常反応を示すことがある,③血中甲状腺ホルモン(遊離型T4)の低値がある.
 ゴナドトロピン分泌不全の検査所見は,①血中ゴナドトロピン(LH,FSH)は高値ではない,②ゴナドトロピン分泌刺激試験(GnRH負荷など)に対して,血中ゴナドトロピンは低反応ないし無反応,視床下部性ゴナドトロピン分泌不全症の場合は,GnRHの1回または連続投与で正常反応を示すことがある,③血中,尿中性ステロイドホルモン(エストロゲンとプロゲステロン(女性),テストステロン(男性))の低値,④ゴナドトロピン負荷(HCG負荷など)に対して性ホルモンの分泌増加反応がある. 成人におけるGH分泌不全の検査所見は,GH分泌刺激試験としてインスリン低血糖,アルギニン,またはグルカゴン負荷試験において血中GHの頂値が3 ng/mL(リコンビナントGHを標準品とするGH測定法)以下である.GHRP-2負荷試験で血中GH頂値が9 ng/mL以下であるとき,インスリン低血糖におけるGH頂値1.8 ng/mL以下に相当する重症型のGH分泌低下と考えられる.血中IGF-1は低値を示すことが多い.小児におけるGH分泌不全では,インスリン低血糖,アルギニン,l-ドパ,クロニジンまたはグルカゴンの負荷試験において血中GHの頂値が6 ng/mL以下,またはGHRP-2負荷試験で血中GH頂値が16 ng/mL以下である.
 PRL分泌不全の検査所見は,①血中PRL基礎値を複数回測定し,いずれも1.5 ng/mL未満である,②TRH負荷に対する血中PRLの反応性が低下または欠如している.視床下部性下垂体機能低下症では,血中PRLは正常ないし高値を示す.
3)画像検査:
頭部X線撮影,頭部CT,MRI画像検査により視床下部,下垂体茎,下垂体などに器質的病変の有無を調べる.Sheehan症候群ではトルコ鞍空洞(empty sella;図12-2-8)が認められる.下垂体腺腫では腫瘍部は通常均一で造影効果は正常組織より遅れる.Rathke囊胞では低信号域がみられる.リンパ球性下垂体炎や胚腫では,造影剤で腫大した下垂体や下垂体茎が著明に均一に造影される.
診断
 表12-2-5に示した症状を把握し,それを裏付けるホルモン分泌不全の検査所見から総合的に判断する.経過観察中に,当初認められなかった分泌不全が明らかになっていく場合がある.
鑑別診断
1)標的内分泌器官の原発性機能低下:
副腎,甲状腺,性腺などの原発性の機能低下においても症状は類似するが,下垂体前葉ホルモンは高値を示し,刺激試験に対して過剰増加反応を示す.
2)神経性食欲不振症:
やせが顕著で無月経を伴うが,陰毛,乳房は保たれている.血中GH,ACTH,TSHの分泌低下はない.血中遊離T3の低値が目立つ.
3)ホルモン不応症:
ホルモン受容体機構の異常によりホルモン作用が発揮されないために,分泌不全と同様の症状を示すが,血中の前葉ホルモンは保たれている.
合併症
 肝障害(脂肪肝炎)や脂質異常症,高血圧,成長障害などの合併症がみられる.副腎皮質ステロイドの補充によって潜在性の尿崩症や糖尿病が顕在化することがある.
経過・予後
 原疾患により異なるが,画像診断を含めた経過観察と適切な対応が必要である.腫瘍や進行性の慢性炎症では放置すると予後は不良である.血管障害や外傷,手術に続発したものは,適切な補充療法のみで予後はよい.
治療
1)ホルモン補充療法:
早期診断と早期治療が重要である.原則として分泌が低下しているホルモンを補充する.一般症状の経過観察とともに,血中ホルモンや尿中ホルモンを定期的に測定してホルモン補充量を調整する.特に感染時や妊娠時の必要量の調整に注意する. ACTH分泌不全に対して,副腎皮質ステロイドとしてヒドロコルチゾン1日量10~20 mgを経口投与する.手術,感染などのストレス時には,維持量の2~3倍量を投与する.TSH分泌不全に対してT4製剤(レボチロキシン)を少量から開始し維持量まで漸増する.高齢者や心疾患を有する患者では特に注意して少量から開始する.ACTHとTSHの分泌不全がともに存在する場合には,副腎皮質不全を避けるため,副腎皮質ステロイドの補充を開始した後に甲状腺ホルモンを投与する.
 ゴナドトロピン分泌不全に対して,男性では二次性徴の発現・成熟のため,性ステロイド補充(成人ではテストステロンデポ製剤の筋注)を行う.妊孕性獲得に必要な精子形成のためにはhCG-FSH療法を行う.LHRH療法は視床下部性性ゴナドトロピン分泌不全症で用いられることがある.思春期以降更年期までの女性ではエストロゲンとプロゲステロンを併用投与するKaufmann療法を行う.挙児希望がある場合,卵胞の発育と排卵を誘発するためにクロミフェン療法やゴナドトロピン療法を行う.
 GH分泌不全に対して,小児の成長障害(低身長)ではヒトGHを毎日皮下投与する.成人期の重症GH分泌不全に対してもQOL改善,体組成異常や代謝障害の是正のためGH投与が行われる.
2)原因療法:
原疾患に対しては,手術,薬物投与,放射線照射などの適応を考慮する.下垂体腫瘍に対する手術の適応,術式や時期は,種類や大きさによって異なるが,経蝶形骨洞手術が行われる場合が多い. ドパミン作動薬やソマトスタチン誘導体による薬物治療がホルモン産生腫瘍の一部に著明な縮小効果を示す.手術前後に薬物療法を併用することもある.胚腫に対しては化学療法と放射線療法が行われる.[島津 章]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「下垂体前葉機能低下症」の意味・わかりやすい解説

下垂体前葉機能低下症
かすいたいぜんようきのうていかしょう

視床下部あるいは下垂体に生じた腫瘍(しゅよう)、炎症、頭部外傷、出血などの病変の結果、下垂体前葉ホルモンのいずれかの分泌が低下し、後記のホルモン分泌低下症が一つ以上認められる疾患の総称。指定難病。2001年(平成13)の厚生労働省疫学調査によると日本の患者数は約1500名。下垂体前葉ホルモンには、ゴナドトロピン(Gn、性腺(せいせん)(生殖腺)刺激ホルモンともいう。黄体形成ホルモン(LH:luteinizing hormone)と卵胞刺激ホルモン(FSH:follicle-stimulating hormone)の二つがある)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)がある。治療としては、原因となった病変を治すとともに、不足しているホルモンを補充する。

[大久保昭行 2016年6月20日]

ゴナドトロピン分泌低下症

ゴナドトロピンは、性腺(卵巣、精巣)に作用して、女性では卵胞の発育、排卵、黄体形成、女性ホルモンの産生を促進し、男性では精巣の発育、精子形成、男性ホルモンの産生を促進する。ゴナドトロピン分泌低下症では、二次性徴の欠如または二次性徴の進行停止、月経異常、性欲低下、不妊、陰毛・腋毛(えきもう)の脱落、性器萎縮(いしゅく)、乳房萎縮、小陰茎、停留精巣、尿道下裂、無嗅(むきゅう)症(カルマンKallmann症候群)などの症状がみられ、血中ゴナドトロピンの低値、血中および尿中の性ステロイドの低値が認められる。無嗅症を伴うカルマン症候群は、ゴナドトロピン放出ホルモンが欠損している疾患で、口唇裂、色覚異常などの症状もみられる。なお薬剤の副作用や、高度肥満、神経性食思(食欲)不振症などによりゴナドトロピン分泌の低下がみられる場合がある。

[大久保昭行 2016年6月20日]

ACTH分泌低下症

ACTHは副腎皮質に作用して、コルチゾールと副腎アンドロゲンの合成を促進する。ACTH分泌低下症では、血中コルチゾールの低値に伴い、全身倦怠(けんたい)感、易疲労性、食欲不振、低血糖や低ナトリウム血症による意識消失、低血圧などの症状がみられる。なおACTHの分泌低下は薬剤の副作用でもみられることがある。

[大久保昭行 2016年6月20日]

TSH分泌低下症

TSHは甲状腺に作用して、甲状腺ホルモンの産生と分泌を促進する。TSH分泌低下症では、血中甲状腺ホルモンの低値に伴い、寒がり、不活発、皮膚の乾燥、徐脈、脱毛、発育障害など甲状腺ホルモン欠乏症状がみられる。なお薬剤の副作用でTSH分泌が低下する場合もある。

[大久保昭行 2016年6月20日]

GH分泌低下症

(1)小児 小児では、身体のバランスはとれているが低身長の成長障害、乳児では、低身長は認められなくても低血糖症状がみられる。頭蓋(とうがい)内疾患や他の下垂体ホルモンの分泌低下がみられる場合もある。

(2)成人 小児期に発症した場合は成長障害が認められる。しかし性腺機能低下症を合併しているときは成長障害を認めないことがある。易疲労感、スタミナ低下、集中力低下、気力低下、うつ状態、性欲低下などの自覚症状や皮膚の乾燥と菲薄(ひはく)化(薄くなること)、内臓脂肪の増加、骨量の低下、筋力低下などの症状がみられる。頭蓋内疾患の合併あるいは既往歴や治療歴、または周産期異常の既往がある場合がある。

[大久保昭行 2016年6月20日]

PRL分泌低下症

産褥(さんじょく)期の乳汁分泌低下と臨床検査によりPRLの分泌低下が認められる。

[大久保昭行 2016年6月20日]

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六訂版 家庭医学大全科 「下垂体前葉機能低下症」の解説

下垂体前葉機能低下症
かすいたいぜんようきのうていかしょう
Hypopituitarism
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 脳下垂体は、前葉(ぜんよう)後葉(こうよう)とに分けられます。このうち、前葉でつくられる種々のホルモンの分泌が障害されて起こる病気です。下垂体前葉ホルモンには、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどがあります。

 下垂体前葉ホルモンの分泌の低下は、下垂体前葉自身の障害により起こるものと、下垂体を調節するはたらきをもつ視床下部(ししょうかぶ)の障害によって起こるものとがあります。また、単一のホルモンの分泌が障害される場合だけでなく、2つ以上が障害されることもあります。

原因は何か

 さまざまな原因により下垂体前葉機能低下症が起こりえます。分娩時の大出血により、下垂体のはたらきが悪くなり、下垂体前葉細胞が死んでしまうことがあります。男性で最も多い原因は下垂体腫瘍(しゅよう)です。ほかに、結核(けっかく)などの炎症性疾患、自己免疫性の下垂体炎、頭部外傷や手術、放射線治療後の障害などで起こりえます。まれに、下垂体の発生・形成異常、遺伝子異常によって起こることもあります。

症状の現れ方

 基本的におのおののホルモン欠落症状が現れます。成長ホルモンの分泌低下が発育期に起こると、下垂体性の低身長症となります。副腎皮質刺激ホルモンの低下では、副腎皮質ホルモンの分泌が障害されて、だるさや疲れやすさが増し、筋力の低下や血圧の低下を招きます。低血糖の原因となることもあります。感染症やけがをきっかけに、ショックに(おちい)ることもあります。

 甲状腺刺激ホルモンの分泌低下では、寒がりで皮膚が乾燥し、むくみが出ます。小児期に性腺刺激ホルモンの分泌が障害されると、二次性徴の発現がみられません。成人では性欲の低下を来し、男性では勃起(ぼっき)不能、成人女性では無月経となります。大きな下垂体腫瘍が原因の場合では、視力が障害されます。視床下部が障害されると、尿崩症(にょうほうしょう)、食欲異常、体温異常を生じます。

検査と診断

 どのホルモンが障害されているか、血中のホルモンの値を調べます。また、ホルモン分泌を刺激する検査を行うことで、障害の程度とその部位を推測します。MRIなどの画像検査を通して、視床下部や下垂体の病変を発見できます。

治療の方法

 機能低下症を引き起こした原因の治療と、その障害されたホルモンの補充を行います。腫瘍の場合は、腫瘍の性質に応じた摘出術や放射線、薬剤による治療を行います。結核などでは、原疾患の治療を行います。

 下垂体性の低身長症では前述した成長ホルモンによる治療を行います。最近は、何らかの原因で成長ホルモンの足りない大人にも、成長ホルモンの補充療法が保険で認められるようになりました。副腎皮質刺激ホルモンの障害にはステロイドホルモン、甲状腺刺激ホルモンの障害には甲状腺ホルモンを投与します。性腺刺激ホルモンの障害では、障害の程度と性腺機能維持に応じた補充療法が行われます。

病気に気づいたらどうする

 原因の精査とホルモン分泌の障害に応じた補充療法が必要です。適切な治療を行わないと、低血糖などによりショックになることがあります。内分泌専門医を受診してください。

蔭山 和則, 須田 俊宏

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家庭医学館 「下垂体前葉機能低下症」の解説

かすいたいぜんようきのうていかしょう【下垂体前葉機能低下症 Hypopituitarism】

[どんな病気か]
 脳にある下垂体(かすいたい)の前葉(ぜんよう)という部分からは、ホルモンの分泌(ぶんぴつ)をうながすホルモン(ホルモン放出ホルモン)が分泌され、臓器を刺激して、ホルモンを分泌させています。
 甲状腺刺激(こうじょうせんしげき)ホルモン、副腎皮質刺激(ふくじんひしつしげき)ホルモン、性腺刺激(せいせんしげき)ホルモン、および肝臓を刺激してソマトメジン(成長を促進するホルモン)の分泌をうながす成長ホルモンなどのホルモンが、下垂体から分泌されています。
 まとめて下垂体前葉(かすいたいぜんよう)ホルモンと呼ばれる、これらのホルモン放出ホルモンの分泌が低下した状態が下垂体前葉機能低下症です。
 下垂体前葉機能低下症には、1種類だけのホルモン分泌が低下している場合、いくつかのホルモン分泌が低下している場合、すべてのホルモン分泌が低下している場合など、いろいろなタイプがあります。
 また、分泌の低下がわずかなものから、完全にストップしているものまで程度もさまざまです。
 分泌が低下している下垂体前葉ホルモンの種類によって、いろいろなホルモン欠乏の症状が現われます。
 性腺ホルモンの欠乏症状としては、性欲の低下、女性では月経(げっけい)がなくなったり、男性では体型の女性化などがおこります。
 副腎皮質ホルモンの欠乏症状としては、全身のだるさ(倦怠感(けんたいかん))、食欲不振、下痢(げり)、嘔吐(おうと)、空腹時の眠け、発熱などがあります。
 甲状腺ホルモンの欠乏症状としては、寒がり、眠け、緩慢(かんまん)な動作、乾燥した皮膚、まゆ毛の減少などがあります。
[原因]
 下垂体に腫瘍(しゅよう)や炎症があると、下垂体前葉機能低下症(別名シモンズ病)がおこってきます。
 また、分娩のときに大出血をおこしてショック状態におちいった女性が、回復後しばらくたってから、ときには10年以上も後に、下垂体前葉機能低下症をおこすことがあります。
 これを、とくにシーハン病と呼んでいます。
[検査と診断]
 血液中の下垂体前葉ホルモンの測定をします。つぎに、視床下部(ししょうかぶ)ホルモン剤を注射して下垂体前葉を刺激し、血液中の下垂体前葉ホルモンが増えたかどうか、その値を調べます。
 下垂体前葉ホルモンの値が異常に低下しているとか、視床下部ホルモンの刺激を受けて下垂体前葉ホルモンの分泌が増加しなければ、下垂体前葉機能低下症と診断します。
[治療]
 腫瘍が原因の場合は、脳の手術を行なって下垂体の腫瘍を摘出します。また、放射線を照射して腫瘍細胞を消滅させる放射線療法が有効なこともあります。
 原因がそれ以外であったり、腫瘍を摘出する前後には、不足しているホルモンを内服し続けます。
[日常生活の注意]
 生涯、毎日欠かさずホルモンを内服しなければなりません。そうすれば、ふつうの生活がおくれます。

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