デジタル大辞泉 「ベルの不等式」の意味・読み・例文・類語 ベル‐の‐ふとうしき【ベルの不等式】 量子力学において、量子もつれが存在する場合に不成立となる不等式。1960年代に英国の物理学者ジョン=ベルが導出。その後、アラン=アスペをはじめ、一か所で同時に発生した二つの光子の偏光の向きや電子のスピンを離れた場所で観測する巧妙な実験を行い、この不等式が成り立たないことを確かめた。これにより自然界には空間的な隔たりに依存しない非局所性といわれる性質が存在することが明らかになった。[補説]のちの量子情報科学の基礎となるベルの不等式の破れを立証した業績により、アラン=アスペ、ジョン=クラウザー、アントン=ツァイリンガーは、2022年のノーベル物理学賞を受賞した。 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例 Sponserd by
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベルの不等式」の意味・わかりやすい解説 ベルの不等式ベルのふとうしきBell's inequality 1964年にイギリスの物理学者ジョン・スチュアート・ベルが提唱した,複数の物理量の観測値に関する不等式。離れている複数の粒子の性質は個別に決定できる(局所実在性が成り立つ)と仮定すると成立するが,量子力学のエンタングルメントと呼ばれる性質が正しいとすれば成立しない。式にはさまざまな形式がありうるが,いずれも 1ヵ所で発生した二つの光子の偏光の向き,あるいは 1ヵ所から反対方向に飛び出した二つの電子のスピンに関する不等式である。アルバート・アインシュタインらは EPRパラドックスを発表し,局所実在性を仮定すると量子力学は不完全だと主張したが,ベルの不等式によって,局所実在性そのものの正否を実験で検証できるようになった。1970年代にジョン・クラウザーらが最初に実験を行ない,それとは独立にマイケル・ホーンらも実験を行なったが,ともに結果は曖昧だった。決定的な実験結果とされるのが,1982年に発表されたフランスのアラン・アスペによるもので,ベルの不等式は成立せず,奇妙にみえるエンタングルメントという性質が真実であることが立証された。つまり量子力学に矛盾はなく,アインシュタインらの非難はあたらないということが示された。 出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報 Sponserd by
知恵蔵 「ベルの不等式」の解説 ベルの不等式 量子世界ならではのもつれ合いがあるかどうかを見極められる不等式。1960年代半ばに英国の理論物理学者J.ベルが示した。EPR対と呼ばれる2つのもつれた粒子では、観測によって片方の状態が定まった瞬間、もう一方の状態も決まる。たとえ話でいえば、片方が「赤」とわかったとたん、もう一方は「白」になり、片方が「白」とわかればもう一方は「赤」になるという具合だ。この相関は日常の常識を超えるほど強く、量子もつれといわれる。それぞれの粒子が、遺伝子のように「赤」や「白」の素因を隠しもっていて、それが観測の瞬間に現れる、ということでは説明できない。量子の世界にこの強い相関があることは、フランスの実験物理学者A.アスペらの実験などではっきりと確かめられている。その判定にも、この不等式が使われた。 (尾関章 朝日新聞記者 / 2008年) 出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報 Sponserd by