改訂新版 世界大百科事典 「ベル電話研究所」の意味・わかりやすい解説
ベル電話研究所 (ベルでんわけんきゅうじょ)
Bell Telephone Laboratories
アメリカの電話網の大部分を運営・整備している巨大な事業体ベル・システムの研究部門として,システム傘下の企業群に付設されていた研究所を統合して,1925年に設立された大研究所。設立にあたっては,ベル・システムの中核企業であるAT&T(アメリカ電話電信会社)とウェスタン・エレクトリック社が共同出資した。19世紀末から20世紀初頭にかけて,いくつかの大企業が自前の研究所を設けて技術開発にあたるようになったが,ベル・システム各社も20世紀初頭からこの方式をとり入れ,研究陣の強化に努めていた。その実績を踏まえてベル電話研究所が設立されたわけである。初代所長ジューエットF.B.Jewett(1879-1949)は,当初から研究員の自主性を重んじ,また実用研究に劣らず基礎研究を重視した。そのような気風の中で,研究員たちは電気・通信に関する多くの発明・発見を通じて,ベル・システムの発展に大きく貢献したばかりでなく,C.J.デビッソンとジャーマーL.H.Germerによる電子の波動性の実験的証明(1927)など,物理学の発展にも寄与した。また,バーディーンJ.Bardeen,ショックリーW.B.Shockley,ブラッテンW.H.Brattainらによる半導体の研究とトランジスターの開発(1948)は,ベル電話研究所における数多くの研究開発の歴史にひときわ輝きを与えている。近年ではテルスターなど各種通信衛星の開発が耳目を集めた。ベル電話研究所の規模は他に比肩するものがないほど巨大で,ニュージャージー州マレーヒルの中央研究所のほか,十数ヵ所の研究施設を有し,約2万人もの人々が日々研究にいそしんでいる。その研究成果は主として《ベル・システム・テクニカル・ジャーナルBell System Technical Journal》および《ベル研究所記録Bell Laboratories Record》を通じて発表されている。なお84年1月1日からのAT&Tの分割に伴い,ベル研究所の人員・予算とも削減が行われており,研究水準が維持できるかどうかを危惧する声もある。
執筆者:成定 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報