日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペンギン目」の意味・わかりやすい解説
ペンギン目
ぺんぎんもく
鳥綱の1目。この目Sphenisciformesはペンギン科Spheniscidae1科だけからなる。ペンギン科は南極および亜南極海域を中心に南半球に分布し、外形態は北半球のウミスズメ科やアビ科に一見似ているが、解剖学的にも生活様式の点でも独特の潜水鳥である。鳥類のなかでは、おそらくもっとも特殊化した鳥であろう。事実、19世紀の分類学者や解剖学者のなかには、ペンギンと他の鳥類はそれぞれ別個の爬虫(はちゅう)類から進化したと信じていた者も少なくなかった。翼はひれ状に変形し、飛ぶことはまったくできない。足指には水かきがあるものの、潜水や遊泳はもっぱらひれ状の翼による。このことは、他のすべての鳥が足と水かきを使って泳ぐのと対照的である(例外として、カワガラスは翼を使って潜水する)。また、寒さや直立姿勢に対する適応として、羽毛や跗蹠(ふしょ)骨が特殊化している。一方、多くの形態的特徴、とくに肩帯および胸骨はまったく他の鳥と同様で、ペンギンを含むすべての鳥類の起源は同一であることを強く示唆している。現在、多くの学者によって支持されている考えは、ペンギン目はミズナギドリ目といちばん縁が近く、両者は共通の祖先をもち、その祖先は飛ぶことができたとするものである。しかし、白亜紀の末にはペンギンはすでに分化を遂げ、飛ぶ力を失っていたことであろう。というのは、現在のペンギンとほとんど変わりがなく、ある点ではいっそう特殊化したペンギンの化石が、第三紀始新世の終わりに発見されているからである。地質時代の過去にはペンギンはいまより繁栄していたと思われ、化石種のなかには背丈1.6メートル、エンペラーペンギンよりはるかに大きなものもいた。
[森岡弘之]