中生代を三分したうちの最後の地質時代。およそ1億4500万年前から6600万年前までの約7900万年間に相当する。1822年にベルギーのダロイJean-Baptiste-Julien d'Omalius d'Halloy(1783―1875)によって、西ヨーロッパに発達するチョーク層(超微化石などからなる多孔質の石灰岩)にちなみ名づけられ、その後チョークの有無に関係なく時代名として使われている。
白亜系(白亜紀の地層)の標準地域には、古くから研究が続けられている西ヨーロッパ(フランスおよびイギリス南部)がとられているが、全時代の地層が連続的に観察される地域は陸上にはない。一部の時代については、マダガスカル、日本(北海道)、北アメリカ(西部内陸とメキシコ湾岸地域)などの海成層も、アンモナイト、イノセラムスなどの大形示準化石(標準化石)を豊富に産し、詳しい分帯がなされている。一般に白亜紀は前期(ベリアシアン、バランギニアン、オーテリビアン、バレミアン、アプチアン、アルビアン)と後期(セノマニアン、チューロニアン、コニアシアン、サントニアン、カンパニアン、マーストリヒチアン)の2期12階に区分されている。数次にわたる海洋底掘削により、大西洋、西太平洋などで白亜紀全期間にわたる連続性のよい微化石層序が知られ、陸上堆積(たいせき)物との対比が進められている。微化石では浮遊性有孔虫、放散虫、超微化石が時代決定と対比に有効で、さかんに利用されている。
白亜系は世界各地に広く分布し、この時代(とくに後半)の海進が大規模であったことを示す。下位のジュラ系から堆積が連続しておこっていることが多いが、白亜紀末には世界的規模の海退があり、不整合をもって第三系(第三紀の地層)に覆われるのが普通である。動物界の変遷も同様にジュラ紀から漸移的に変わっているが、白亜紀末には恐竜、アンモナイト、ベレムナイト(矢石、箭石(やいし))、イノセラムス、厚歯二枚貝などがいっせいに絶滅して大きな生態系の変革が生じた。この大量絶滅の原因については、大規模な海退、気候変化、火山活動、大隕石(いんせき)の衝突などさまざまな学説が提唱されたが、現在では、メキシコのユカタン半島への大隕石の衝突による全球的地球表層環境の激変に帰せられている。植物界の変遷はこれに対応せず、むしろ白亜紀前半の被子植物の出現をもって大きな時代が画される。海洋でもこのころに強力な捕食者が増え、被食者である貝類は生活場所の移動や新しい適応戦略を強いられた。
白亜紀は地殻変動が比較的激しかった時代で、とくに環太平洋地域では海洋底の沈み込みなどに伴う広域変成作用や火成活動が盛んにおこり、多くの金属鉱床をもたらした。中東や北アメリカのメキシコ湾岸地域では、この時代の堆積物が重要な油田を形成している。大西洋はおもに白亜紀に始まる海洋底拡大によって生じた。太平洋の海洋底もほとんどが白亜紀以降に形成されたもので、それ以前の海洋底と表層の堆積物は海溝の下に沈み込むか、はぎとられて周辺の大陸縁に付加されている。
日本の白亜系の分布と層相は島弧(弧状列島)の帯状構造と密接な関係がある。西南日本内帯では非海成堆積物とこれを覆う酸性火山岩が卓越し、中央構造線沿いには浅海成の厚い砂質堆積物が分布する。西南日本外帯では、海成堆積物が東西に伸びるいくつかの狭長な地帯に分布し、その外側のほとんどの部分は白亜紀から第三紀に及ぶ大規模な付加体堆積物で占められている。一方、東北日本では、北上山地の数地に時代の異なる浅海堆積物が点在するほか、北海道では海成白亜系がほとんど全域にわたってみられる。とりわけその中軸部の蝦夷(えぞ)累層群は、サハリンにまで帯状に分布し多くの示準化石を含むので、東アジアの白亜系の基準として重要である。
[速水 格・小澤智生 2015年8月19日]
『市川浩一郎他著『改訂新版地史学 下巻』(1967・朝倉書店)』▽『小畠郁生著『白亜紀の自然史』(1993・東京大学出版会)』▽『木村敏雄・速水格・吉田鎮男著『日本の地質』(1993・東京大学出版会)』▽『ドゥーガル・ディクソン著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅡ デボン紀から白亜紀』(2003・朝倉書店)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
中生代を三つに分けたうちの最後の時代で,約1億4400万年前に始まり,6500万年前に終わる約7900万年の期間に相当する。その名称は,西ヨーロッパでこの時代の地層のかなりの部分がチョーク(ラテン語creta)からできていることに由来する。1822年J.B.ダロアによって提唱された。標準層序は西ヨーロッパ(南イングランド,パリ盆地,ローヌ地方)で立てられ,約40のアンモナイトによる化石帯区分がなされているが,マダガスカル,インド半島,カリフォルニア,メキシコ湾岸,北海道などにも良好な化石層序が知られ,それぞれ独自の分帯が行われている。ジュラ紀と同様にアンモナイト,ベレムナイトが重要であるが,部分的にはイノケラムスやウニも示準化石として利用され,最近では浮遊性有孔虫,放散虫,ナンノプランクトンも大洋底堆積物の研究に関連して脚光を浴びている。被子植物は白亜紀中ごろ以降に豊富になったので,白亜紀の真ん中に中植代と新植代の境界が置かれている。白亜紀に起こった主要な地史的事変としては後期の中ごろに最高潮に達した世界的規模の海進とその末期に起こった大海退とこれにともなう動物の大量絶滅が挙げられる。また大西洋はこのころから開口して旧大陸と新大陸が中央海嶺からしだいに遠ざかり始めたと考えられる。日本列島を含む環太平洋の変動帯では,この時代に激しい褶曲,変成,火成活動(特に花コウ岩類の形成)があり,多くの金属鉱床が生成された。日本列島における海成の白亜系は,北海道中東部によく発達するほか,岩手県から鹿児島県まで太平洋側の各地にいくつかの狭長な地帯をなして分布する。一部に暖海性の動物群を含む石灰質岩や汽水性の堆積岩があるが,大部分は浅海性の砕セツ岩である。これに対して大陸側の部分はだいたい陸化していたと思われ,淡水性の貝化石を含む堆積物や流紋岩が分布している。東北地方や中部~中国地方の花コウ岩の大部分も白亜紀に形成された。
→地質時代
執筆者:速水 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ただし,植物界での大きな変革はこれらの境界とは一致せず,動物界の変革に先がけて起こった。中植代Mesophytic eraは裸子植物が全盛をきわめた時代で,その期間は二畳紀中葉から白亜紀中葉までとされている。 中生代はさらに古いほうから三畳紀,ジュラ紀,白亜紀の三つの地質時代に区分される。…
…西ヨーロッパやメキシコ湾岸の上部白亜紀層に特徴的にみられる微細な石灰粒からなる白色未固結の堆積岩で,ドーバー海峡に面する海崖に典型的に発達する。チョークは以前には無機的な炭酸石灰の沈殿物と考えられていたが,電子顕微鏡の発達により,これが主として浮遊性藻類であるコッコリトフォリーダの遺骸(コッコリス)から形成されていることが明らかとなった。…
※「白亜紀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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