ペンギン(読み)ぺんぎん(英語表記)penguin

翻訳|penguin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペンギン」の意味・わかりやすい解説

ペンギン
ぺんぎん
penguin

鳥綱ペンギン目ペンギン科に属する海鳥の総称。この科Spheniscidaeの仲間は、南半球だけに分布し、とくに南極および亜南極圏の海域に多く生息する。全長約40~112センチメートル。羽は短く密で、全身を覆い、翼はひれ状になり、尾と足は短い。ひれ状の翼を用いて潜水し、魚類や動物プランクトン、イカ類をとらえて食べる。頸(くび)から上を水から出して遊泳し、すばやく潜水して水中を高速で進むことができるが、ちょうどイルカのように水中から空中に飛び出し、空気を吸い込んで着水し、また勢いをつけて水から飛び出すことを繰り返して、移動することもある。潜水適応した鳥なので、地上では敏捷(びんしょう)ではないが、直立姿勢をとり、歩いたり跳ねたりして移動する。氷上では胸腹部をつけて、滑るようにはうこともある。

 南極圏・亜南極圏のどの島をとってもペンギンが繁殖しない所はなく、南極半島南極大陸の沿岸には、とくに多くのペンギンが繁殖している。また、オーストラリア南部やニュージーランド付属の島嶼(とうしょ)、アフリカ南部・南西海岸の島、南アメリカ南端のパタゴニアペルーやチリ沿岸にも繁殖する。分布の最北は赤道付近の熱帯ガラパゴス諸島である。

[長谷川博]

分類

現生種は6属18種に分類される。最大種はエンペラーペンギンAptenodytes fosteriで、直立姿勢で1メートルの高さになる。南極の冬に、大陸の奥地に入って繁殖するただ一つの種で、海が氷結してまもなく集団営巣地に戻る。5、6月に1卵を産卵し、雄はこれを足の上にのせ、しばしば零下40℃以下に下がる暗黒の酷寒の中で、絶食して抱卵を続ける。雌は海で越冬するが、産卵から7、8週間後になると戻り、雄と抱卵を交替し、孵化(ふか)した雛(ひな)の世話をする。雛は春先はゆっくり成長し、以後急速に大きくなり、南極が真夏を迎えるころひとり立ちする。キングペンギンA. patagonicaは次に大きい種で、高さ約80センチメートルになる。亜南極圏の島で集団繁殖する。草の陰に営巣し、1卵を産む。卵を足の上にのせて抱卵し、冬季に雛を育てる。かつて人間によって多量に捕殺され、いくつかの島では姿を消した。しかし、その後保護され、再定着した島もある。

 ニュージーランド南部とその周辺の冷海域の島にはキンメペンギンMegadyptes antipodesが繁殖する。周年この海域で生活し、9月なかばに、草のある海岸斜面にあがって2卵を産む。巣は物陰につくられ、草で産座が敷かれる。この種は、まばらで小さな集まりをつくって営巣し、密な大集団をつくることはない。

 アデリーペンギンPygoscelisは、ジェンツーペンギンP. papua、アデリーペンギンP. adeliaeヒゲペンギンP. antarcticaの3種からなる。南極圏・亜南極圏の島や大陸沿岸で繁殖し、甲殻類プランクトンや稚魚を食べる。このうちジェンツーペンギンがいちばん大形で、小石や草を用いて巣をつくり、春先に2卵を産む。秋になるまでに雛は独立する。ヒゲペンギンは南極半島とその近くのいくつかの島で繁殖し、2卵を産む。アデリーペンギンは亜南極圏を含む広い地域で繁殖し、エンペラーペンギンとともに南極大陸のもっとも奥まで繁殖分布する。とくに大きな集団をつくって営巣する。小石を集めて巣をつくり2卵を産み、体を横にして卵を抱く。この種はもっともよく研究され、繁殖生態のほか、誇示行動、コミュニケーションについても解析されている。

 マカロニペンギンEudyptesは6種で、どれも目の上に金色あるいは濃い黄色の羽冠をもつ。亜南極圏の冷海域の島で繁殖し、冬季には北の暖かい海で過ごす。2卵を産み、初卵は第2卵よりも小さい。雛は1羽育つのみである。この仲間は雄のほうが体が大きく、とくに嘴(くちばし)は太い。マカロニペンギンE. chrysolophus平地や荒れた斜面にきっちりまとまった大きな集団をつくって営巣し、石や草陰によく巣をつくる。研究者によってはマカロニペンギンと同一種として取り扱うロイヤルペンギンE. schlegeliは、オーストラリアのマックォーリー島でのみ繁殖する。イワトビペンギンE. crestatusは冷海の島で繁殖する。急峻(きゅうしゅん)な岩の斜面を跳びはねて登り降りし、巣と海とを往復する。岩や石、草の陰に巣をつくり、2卵を産む。このほかに3種あるが、すべてニュージーランド近海の島で繁殖し、似た生活をする。

 ペンギン類でもっとも小形の2種はコビトペンギン属Eudyptulaに分類される。これらは全長40センチメートル余りで、ニュージーランドとオーストラリア南岸に分布する。周年温暖な海にすみ、夜、海岸にあがって、洞や土中に掘った巣穴に通う。1腹2卵、ときに3卵を産むことがある。魚類をとらえて食べる。

 残る一つのグループはフンボルトペンギンSpheniscusで、4種が含まれ、ペンギン類のなかでは北に分布し、温暖な海域で生活する。草や木の陰、土中の穴に巣をつくって、強い太陽光を避ける。どの種も嘴と足を使って穴を掘ることができる。普通、2羽の雛を育てる。これらもおもに魚類を食べる。マゼランペンギンS. magellanicusはチリ南部からパタゴニアにかけての海岸で繁殖する。営巣地は開けた海岸から、草地斜面、林とさまざまで、遮蔽(しゃへい)物がある所ではその陰に巣をつくり、そうでない所では浅い巣穴を自ら掘る。フンボルトペンギンS. humboldtiはチリ北部からペルーの海岸地方で繁殖し、洞や穴で小集団をつくって営巣する。フンボルト海流が養う豊富な魚群に依存して生活し、グアノ堆積(たいせき)に寄与してきた。しかし、かつてのグアノの乱掘によって営巣場所を奪われ、現在は数が少なくなっている。フンボルト海流の終点に位置するガラパゴス諸島にはガラパゴスペンギンS. mendiculusが生息する。海岸の洞穴で、単独または小さな集団をつくって営巣する。

 もう1種は南アフリカ南部・南西部の沿岸で繁殖するケープペンギンS. demersusである。この種もベンゲラ海流が養われる。豊かな魚類を利用し、グアノ堆積に寄与した。裸地で岩の下に穴を掘ったり、まばらに生える植生の陰を利用して巣をつくり、2卵を産む。

[長谷川博]

生態

ペンギン類の繁殖で興味深いのは、集団で繁殖する種の雛が、成長してから雛だけの密集した集合をつくることで、とくに、南極圏で繁殖するエンペラーペンギン、アデリーペンギンなどで大きな集合が形成される。これはオオトウゾクカモメやオオフルマカモメなどの捕食者から共同で身を守り、寒さやブリザードからお互いを守る意味をもつと考えられている。親鳥は、雛集団の周囲にきて鳴き声を発し、自分の雛を呼び出して給餌(きゅうじ)する。雛は全身の綿羽が本来の羽毛に生え換わるまで水には入らない。親鳥は繁殖のあと短期間に全身の換羽を行う。その間は陸にとどまり餌(えさ)をとることはない。このようにペンギンには、寒冷地で生活するためのさまざまな適応がみられる。

[長谷川博]

人間生活との関係

ペンギン類はかつて人間の食料としてとらえられ、搾った油も利用された。卵も採集され、食料となった。こうした多量の捕殺によって、温暖な地方に生息するペンギンの数がとくに減少した。またグアノは良質の肥料として採掘され、そこに巣穴を掘って繁殖していたフンボルトペンギン、ケープペンギンは営巣場所を奪われ、減少した。近年ではどの国でも鳥類の捕獲を禁止・制限し、保護するようになった。しかし、別の新しい問題が生じている。海洋の油汚染は、多くの海鳥を一挙に殺してしまうことがある。ケープペンギンはこのために現在では数が著しく減ってしまった。もう一つは、漁業との摩擦で、海鳥が網にかかる事故だけでなく、海鳥の餌を人間がとってしまうということがあげられる。南極のオキアミを人間がとりすぎてしまえば、それに依存して生活するクジラ類やペンギン類などに限らず、ひいては生物群集そのものを変質させてしまうおそれがある。

[長谷川博]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペンギン」の意味・わかりやすい解説

ペンギン
Spheniscidae; penguins

ペンギン目ペンギン科の鳥の総称。18種からなり,全長 40~120cm。羽色はほとんど白と黒である。は鰭状に変形し,飛翔力はなく,足には蹼(みずかき)があり,水中での生活に適応している。泳ぐときは翼で推進力を得て,おもに足で舵をとる。大部分の種は地面の上や穴の中に巣をつくるが,巣はつくらず足の甲に卵を乗せて温める種もある。コウテイペンギンは長期間絶食して抱卵する。集団繁殖し,繁殖の後期になるとだけが集まって,親以外のペンギンもその世話をするクレイシ(共同保育所)が見られる種もある。赤道直下に生息するガラパゴスペンギン Spheniscus mendiculus を除き,すべて南半球の島や沿岸で繁殖する。熱帯温帯にすむ種の生息地付近は寒流域で,水温が低い。アデリーペンギン,コウテイペンギン,フンボルトペンギン S. humboldti などは動物園などでよく飼養されている。

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