ホスファゼン

化学辞典 第2版 「ホスファゼン」の解説

ホスファゼン
ホスファゼン
phosphazenes

構造をもつ化合物の総称.Xは,ハロゲン(F,Cl,Br)([別用語参照]ハロゲノホスファゼン)および陰性基RO-,ArO-,H2N-,RNH-,R2N-,(R = アルキル,Ar = アリル)など.代表的なn = 3の環状化合物が,ベンゼンに似た構造,性質をもつことに由来する名称.IUPAC用語集によれば,ホスホニトリル(phosphonitrile)で,ホスファゼンはPN間二重結合をもつ化合物,すなわちH3P=NH,HP=NHの誘導体,たとえば環状・鎖状のとなっている.n = 3のヘキサクロロシクロトリホスファゼンは,1834年にJ.v. Liebig(リービッヒ)とH. Wöhlerが発見している.n = 1,2,3,4, > 4の環状オリゴマー,nの大きい鎖状ポリマーなどがある.
(1)n = 1:モノホスファゼン(monophosphazene)X3P=NR.たとえば,Cl3P=N-C6H5
(2)n = 2:ジホスファゼン(diphosphazene)(X2PN)2.-P=N-P=N-の四員環構造.X = (i-プロピル)2Nが(i-プロピル)2PN3の光分解で合成されている.
(3)n = 3(環状):シクロトリホスファゼン(cyclotriphosphazene)(X2PN)3.-P=N-P=N-P=N-の六員環構造で,P-N間隔はすべてほぼ等しく1.47~1.62 Å.∠N-P-N約120°.六角形型平面はX = F,Clの場合は平面であるが,そのほか置換基では折れ曲がっているものが多い.ヘキサクロロシクロトリホスファゼン (PCl2N)3(347.66)は直接合成されるが,ほかの誘導体はこれを出発物質としてClを置換してつくることが多い.一般に,加熱すると開環重合して,鎖状ポリマーとなる.ハロゲン以外の誘導体では非常に多くの化合物が合成されている.(CH3)6P3N3(融点195~196 ℃)[CAS 6607-30-3],(CF3)6P3N3(融点64 ℃),(NH2)6P3N3(吸湿性,水で加水分解する)[CAS 13597-92-7],(CH3O)6P3N3(沸点127~128 ℃(0.1 mmHg))[CAS 957-13-1],(C6H5O)6P3N3(沸点290 ℃(0.14 mmHg),融点約115 ℃)[CAS 1184-10-7].
(4)n = 4(環状):シクロテトラホスファゼン(cyclotetraphosphazene)(X2PN)4.-P=N-P=N-P=N-P=N-の八員環構造をとり,各P原子に2個ずつのハロゲンなどの原子または各種の置換基が結合している.環は平面ではない.P-N間隔はすべて等しく1.42~1.62 Å.加熱により開環重合して鎖状ポリマーになる.オクタクロロシクロテトラホスファゼン(octachlorocyclotetraphosphazene)(PCl2N)4(463.54)のハロゲン誘導体と多くの有機誘導体が合成されている.たとえば,(CH3)8P4N4(融点163~164 ℃)[CAS 4299-49-4],(CF3)8P4N4(融点109 ℃),(NH2)8P4N4[CAS 6954-20-7],(CH3O)8P4N4(融点141 ℃)[CAS 79512-24-6],(C6H5O)8P4N4[CAS 992-79-0]など.
(5)n > 4(環状):シクロポリホスファゼン(cyclopolyphosphazene)(n > 4).についてはn = 5~8が知られている.
(6)鎖状ポリホスファゼン(polyphosphazene)(n ≦ 15000):分子量は2×106 程度.Xは,ハロゲン,各種置換基で,数種類のものなど多数の化合物が知られている.(PCl2N)3 の加熱による開環重合で,ポリ(ジクロロホスファゼン)(poly(dichlorophosphazene))[CAS 25034-79-1]が得られる.このClを置換して目的化合物を合成する.のClは,求核試薬ROH,ArOH,RNH2,R2NHなどと反応して,それぞれ,RO-,ArO-,RNH-,R2N-にかわる.各種のオルガノシクロトリホスファゼンを開環重合させてポリマーをつくる方法も行われる.ポリマーの性質は,骨格の長さと置換基の種類の双方によって決まる.骨格にはP=N二重結合が残り,共役二重結合系であるためゴム弾性があり,しかもゴムと異なり,炭素鎖ではないから,耐火性,耐熱性,耐放射線性,耐酸化性にすぐれていて,低温,高温,放射線被ばくなどへの耐性が大きい.さらに,置換基を選ぶことにより,色々の特性が付与される.フッ素系置換基のものは難燃性,疎水性で,-60 ℃ まで弾性が保たれるのでシール材,ガスケット,航空機用燃料タンクなどに使われる.置換基がアミノ酸系のものは生体内で加水分解し,徐々に溶解するので,外科手術用糸,一時的な皮膜などの素材や,抗がん剤ステロイドなどのカプセル材料に用いられる.ポリホスファゼンは,すぐれた特性をもつ無機高分子材料として,近年飛躍的に開発が進められてきた化学物質一つである.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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