ホログラフィック・アート(読み)ほろぐらふぃっくあーと(英語表記)holographic art

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ホログラフィック・アート
ほろぐらふぃっくあーと
holographic art

ホログラフィー技術によってレーザー光を用いて露光、撮影したホログラム(三次元写真)を展示する芸術テクノロジカル・アート一種ホログラフィー・アートともいう。

 ホログラフィーは1948年にD・ガボール原理を発明し、1960年にメイマンがレーザーを開発し実用化の段階に入った。1968年にステファン・ベントンが、レーザー光以外の白色光源によって像を再生するいわゆるレインボーホログラフィーを開発すると、折からのアート・アンド・テクノロジー動向のなかで、その純粋な光による不可触な三次元イメージが芸術家たちの関心をひき、アート・メディアとして導入された。

 アート作品では、おもに次の3種類のホログラムが用いられている。

(1)被写体の像をそっくりそのまま再生し、壁に掛けて見られる反射型
(2)イメージや色光をさまざまに変化させて実際にはありえない光景をつくり、光を透かして見る透過型(レインボー・タイプ)
(3)写真フィルムやビデオ、コンピュータ画像から合成するホログラフィック・ステレオグラム
 1969年にイギリスのベンヨンMargaret Benyon(1940― )が個展で初めてホログラムを展示し、以後、おもに反射型を用いてホログラムの基本的な性質に基づいた写実的な作品を次々と発表し、ホログラフィー・アートのパイオニアといわれている。ほかにアメリカのカスディン・シルバーHarriet Casdin-Silver(1925―2008)、レーザーを初めてアートに導入したスウェーデンのレイテスワルドCarl Fredrik Reuterswärd(1934―2016)がこの分野を開拓した。

 1974年にはアメリカのシュワイツァーDan Schweitzer(1946―2001)とモレーSam Moree(1946― )がホログラフィー・スクールを開校、1976年にはニューヨークにホログラフィー美術館が開館した(1992年閉館)。このころから、オランダ生まれでニューヨーク在住のバークハウトRudie Berkhout(1946―2008)は透過型の特性を生かした抽象的で多彩な神秘的イメージを空間的に展開し、一躍この世界の寵児(ちょうじ)となった。

 ドイツのユングDieter Jung(1941― )は、コンピュータから生成したホログラフィック・ステレオグラムによって、非対象で純粋な幾何学的イメージをつくりだしている。なお、オーストラリアのドーソンPaula Dawson(1954― )はバーの室内全体をそっくり再生する横幅、奥行きともに数メートルもの大がかりなレーザー再生ホログラムによって、名古屋市科学館において開催された「第1回名古屋国際ビエンナーレ・ARTEC'89」においてグランプリを獲得した。

 1999年にはニューヨークにホログラフィー・アート・センターが設立されて制作の支援が行われ、翌年オーストリアでガボール生誕100周年記念の国際シンポジウムと「Holography 2000」展が催され、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツを中心に世界各地から数十人のホログラフィック・アーティストのほか、関係者が参加した。

 日本では、1976年に「ホログラフィの幻想展 レーザーによる三次元世界への招待」(西武美術館)が催され、一気に関心が高まった。1970年代末から石井勢津子(せつこ)(1946― )がレインボー・タイプによる大判のインスタレーションで、三田村畯右(しゅんすけ)(1936― )はパルス・レーザーによる瞬間撮影で、アメリカ在住の中村郁夫(いくお)(1960― )は液晶面からのホログラフィー化などの試みで評価されている。1993年には「'93世界のホログラフィー・アート」展(東京・大丸ミュージアム東京)が催された。

 しかし、ホログラムは再生に特定の照明(点光源)が必要であり、液晶によるリアルタイム・ホログラムも試みられているが、一般的にコンピュータ化が困難である。また三次元像であるためテレビ、印刷などのマスメディアに載らないなどの難点もあり、一般への普及は滞っている。欧米ではデザインの応用として、室内ディスプレー、雑誌表紙、絵本、切手、紙幣、クレジットカード、パスポートなどに用いられており、ポートレート撮影もなされている。

[三田村畯右]

『岐阜県美術館編『「幻想と造形展 ホログラフィと振動の不思議な世界」カタログ』(1983・岐阜県美術館)』『中日新聞社編『「'93世界のホログラフィー・アート展」カタログ』(1993・大丸ミュージアム東京)』『辻内順平著『ホログラフィー』(1997・裳華房)』『International Catalogue for Holography/The Creative Holography Index(1994, Monand Press, Germany)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android