日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボイジャー号」の意味・わかりやすい解説
ボイジャー号
ぼいじゃーごう
Voyager
1986年12月14日にアメリカ、カリフォルニア州エドワーズ基地を出発、23日同基地へ帰着する間、216時間3分44秒で無給油無着陸の世界一周飛行に成功したアメリカの記録専用機。飛行距離4万0244キロメートル、平均時速164キロメートルであった。操縦士はルータンDick Rutan(当時48歳)と女性のイェーガーJeana Yeager(当時34歳)の2名。設計はディックの弟のバート・ルータンである。6000リットル近い多量の燃料の搭載と機体自重の軽減、空気抵抗と燃料消費量の低減のため、3本の胴体に縦横比約30というきわめて細い翼と、機首の水平安定板と昇降舵(だ)を備えたユニークな形態の先尾翼機で、二台のエンジンは中央胴体の前後に装備されている。飛行中はプロペラ効率のよい後方エンジンを使用し、前方エンジンは離陸と重量の重い間だけ使用する一種の補助エンジンとなっている。乗員は中央胴体に搭乗するが、狭いので1人が操縦している間は他の1人は後方で横臥(おうが)する。燃料は両側の2本の胴体と翼、前翼内に設けた17個のタンクに収容された。機体はグラファイト複合材ですべて手作りである。この記録飛行は個人の計画によってスタートし、200万ドルに及ぶ製作費もほとんど寄付によってまかなわれ、機体の製作や飛行の支援にも多くのボランティアが参加したことが最大の特色である。また、衛星通信や長距離航法装置など最新の施設を利用し、支援グループの適切な助言によって成功した。
要目は、翼幅33.8メートル、全長7.7メートル、翼面積33.7平方メートル、自重426キログラム、燃料搭載量4052キログラム(1489ガロン)。エンジン、テレダイン・コンチネンタルIOL‐200、液冷210馬力(後方)、同O‐240、空冷130馬力(前方)。製作開始は1982年12月で、84年8月に完成した。
[落合一夫]