マイクロ波通信(読み)マイクロはつうしん(その他表記)microwave communication

改訂新版 世界大百科事典 「マイクロ波通信」の意味・わかりやすい解説

マイクロ波通信 (マイクロはつうしん)
microwave communication

一般に1~100GHzくらいまでの電波マイクロ波と呼び,この周波数帯を用いた無線通信をマイクロ波通信と呼んでいる。マイクロ波は波長が30cm以下のため,直径数m程度の反射鏡アンテナで電波のビーム幅を数度以内に絞ることができる。このアンテナを相互に見通しのある送受信点間に対向させて通信を行うものがマイクロ波通信であり,広帯域信号を安定に伝送できるのが特徴である。この原理に基づき,見通しのある中継点を多数設置して繰り返し中継を行い長距離伝送も可能である。これを見通し内無線中継方式という。通常10GHz以下のマイクロ波帯では中継距離は数十km,長距離回線長は数千kmに及ぶ。現在,日本の公衆通信の市外電話回線の約半分とテレビジョン信号の全国中継の大部分がこのマイクロ波中継によってまかなわれている。広い意味のマイクロ波通信の中には送受信点の片側を地球上の地球局,他の片側を人工衛星とする衛星通信の一部および両側が宇宙に置かれた衛星間通信も含まれるが,技術的・経済的に地上方式と異なるので,ここでは衛星に無関係の地上無線通信のうちの無線中継方式をおもに説明する。

マイクロ波通信では送受信点の間にケーブルなどの物理的設備が不要で,見通し可能な空間だけあればよい。このためルートの建設工期も短く,かつ経済的である。とくに山岳地帯や海峡などを越える場合,または建造物の密集した都市内などには有効である。また中継点のみに機能が集中しているので,自然災害に強くすることも容易である。中継距離は方式と使用する無線周波数によって大幅に変わるが,伝搬損失は距離が2倍になっても6dB(電力で4倍相当)しか増加せず,有線伝送方式とは異なり距離への依存性が少ない。しかしその損失量は,伝搬路が地表面の影響を受けやすい下層大気のため,変動が多いので,その限界から中継距離はおのずと制限される。例えば海や湖水面からの反射波,地理的および気象条件により大気の電波に対する屈折率の不均一性のため電波が相互に弱め合う電波ダクトによるマルチパスフェージング,10GHz以上で生ずる降雨による電波の吸収など各種の影響を受けるので,通信の安定性と中継区間の選定は密接に関連する。一般的には10GHz以下では数十km,10GHz帯で10~25km,20GHz以上では1~10km程度が通常用いられる。この伝搬損失の不安定性を克服するのに各種のダイバーシティ方式がくふうされている。

マイクロ波中継方式の構成は図に示すように,送受信装置など関連装置の故障がシステム全体の不稼働率を低下させないための回線切替えスイッチ,多くの信号を集めたり分離したりする多重化装置とのインターフェースを合わせる接続装置,アナログまたはディジタル伝送にそれぞれ必要な変復調装置,さらにその変調信号を一定の無線周波数へ変換増幅する無線送受信装置,その信号を一つのアンテナへフィーダーを通じて接続する分波結合回路などからなる。変調装置はシステムの特性を決める重要なものであり,アナログ伝送では,周波数分割多重化(FDM)された電話信号で周波数変調(FM)するもの,およびFDM信号で単側波帯振幅変調(SSB-AM)するものなどがある。6GHz帯を用いる例では前者で電話回線2700回線を,後者では5400回線を伝送するものが用いられている。またディジタル伝送では,限られた無線スペクトラムを有効に用いて多量の情報を送るため,高能率の変調方式である16または64値直交振幅変調により1システム当り200メガビット/sまたは135メガビット/s(64キロビット/sは電話換算2880または2160回線)をそれぞれ伝送できる方式が日本およびアメリカなどで用いられている。6GHz帯1ルートの伝送容量は,その現用無線システム数の倍数となるので,最大その7倍となる。

中継所は遠方まで見通しの得られる山上などへ置局される。小規模局で太陽電池などの自立電源でまかなえる例は別として,通常商用電源を用いるための電力線が必要である。しかし落雷など停電時のため自動起動の予備エンジン発電機および地下燃料油槽,主電源用電池などの高信頼度の電源装置が置かれる。信号を中継するための無線中継装置,無人化のための監視制御局との遠隔制御装置などのほか,アンテナおよび塔,それら通信設備を収容する局舎,敷地境界の防護さくなどにより無線中継所は構成される。一方,都市内などで用いられる短距離用または人口の過疎地で用いられるいわゆるルーラル無線用の中継設備の設置は状況によっていろいろな態様がある。市内では高層ビルの屋上にシェルターと称する金属箱に無線機を収めたもの,アンテナと一体化した防水型のもの,または窓越しに直径数十cmのアンテナを有する小型無線装置が室内に設置される場合などがある。また近年DTS(data termination systemの略)または加入者無線方式と称し,中央基地局に多方向のマイクロ波端末機を収容するいわゆる多方向多重無線point-to-multipoint radioが衛星地球局などと組み合わせたり,あるいは単独でも用いられるようになった。

 アンテナは,通常直径数mのおわん形にみえる回転放物面の反射鏡をもつパラボラアンテナが広く用いられるが,電波がビームの主軸方向以外に漏洩(ろうえい)するのを避けるため,回転放物面の一部を反射鏡とする角錐または円錐形のホーンリフレクターアンテナが電波の密集する地域では用いられ,電波干渉を防ぐのに役だっている。元来,マイクロ波通信はアンテナの鋭い指向特性により干渉が少ないため,電波が効率的に用いられる特徴を有するが,これをさらに生かすため,日本で公衆通信用に開発されたさらに干渉が少ない高性能のオフセットアンテナoffset antennaがある。

 インテルサットなどで使用されている衛星通信の無線周波数は,地上のマイクロ波通信用と同じ周波数帯(4,6,11,14,18GHzなど)を共用して用いている。このため衛星・地上マイクロ両通信方式は周波数共用の国際的基準(国際電気通信条約と無線通信規則)の下で相互の共存を図りつつ利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マイクロ波通信」の意味・わかりやすい解説

マイクロ波通信
まいくろはつうしん
microwave communication

マイクロ波(通常300メガヘルツ~3ギガヘルツのUHF帯と3~30ギガヘルツのSHF帯を含めた電磁波をいう)を利用する通信をいう。マイクロ波は、その周波数が短波、超短波に比べて高いので、波長が短く、扱いやすい数メートル以下の大きさのアンテナでもかなり鋭い指向特性をもって電波を定められた方向に発射することができる。

 日本は山が多いことから、市外伝送路を作製するのに、マイクロ波を利用することが適している。日本のマイクロ波通信方式は1954年(昭和29)に、アナログ方式として4ギガヘルツ帯のSF-B1方式(伝送容量1システム当り360チャネル)に始まり、その後4ギガヘルツ帯、5ギガヘルツ帯で3600チャネルの方式が実現している。デジタル方式としては、1969年に電話240チャネルを伝送する方式が、2ギガヘルツ帯で実用化された。その後11、15ギガヘルツ帯などに導入されるとともに、高能率な方式が開発され、4、5、6ギガヘルツ帯で、200メガビット/秒(電話2880チャネル)の伝送可能な方式が実用化されてきた。しかし、6ギガヘルツ帯以下の電話網用のマイクロ波通信は、光通信に順次とってかわられ、これらの周波数は急速に需要の増加している移動通信などに利用されることになっている。

[坪井 了・三木哲也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マイクロ波通信」の意味・わかりやすい解説

マイクロ波通信
マイクロはつうしん
microwave communication

マイクロ波を用いた無線通信。非常に広帯域の信号を伝送できるので,テレビや超多重電話などの中継伝送に広く用いられている。マイクロ波は見通し距離内に限られるので約 50kmごとに中継局を設けて増幅中継する。マイクロ波のアンテナにはパラボラアンテナやホーンレフレクタアンテナが用いられ,中継機はほとんど半導体を用いた固体電子化中継機が用いられている。日本のテレビ中継のすべてと,電話の市外回線の約半分はこの通信方式によっている。

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世界大百科事典(旧版)内のマイクロ波通信の言及

【電気通信】より

…現在では1万通話以上の電話回線を1条の同軸ケーブルで伝送する高多重の搬送多重通信方式も実用化されている。 有線通信方式である同軸ケーブル方式と並んで発達した無線通信伝送方式にマイクロ波通信方式がある。これは周波数が数GHz(1GHz=109Hz)から十数GHzの極超短波を搬送波とする多重通信方式である。…

【電話】より

…これにより1条のケーブルで1万通話以上を同時に伝送する多重通信方式も実現されている。市外電話伝送には上記の有線ケーブル方式のほかに,マイクロ波通信方式を用いた無線方式も広く用いられている。マイクロ波は雑音が少なく,安定な伝送特性をもち,周波数帯域幅が広いので広帯域の多重通信情報が送れるのが特徴である。…

※「マイクロ波通信」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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