空間に発射された電波を用いる通信をいう。電波は無線伝送に用いられる音声信号と赤外線との間の電磁波であるが,現在では一般に10kHzから300GHzの間のものとされている。一方,国際電気通信条約の無線通信規則では3THz以下の電磁波と定義された。その技術の発展は表に示したように,この100年間に利用できる無線周波数は100GHz帯まで,また地上のみならず宇宙通信へと拡大した。本項では,おもに地上無線通信について解説し,〈宇宙通信〉〈衛星通信〉についてはそれぞれの項目を参照されたい。
無線通信は電波の発生を火花放電またはアーク放電によった初期では,おもに固定通信のほか,海上における遭難や安全確認のための通信に用いられた。日本では1912年に逓信省技師の鳥潟右一らがTYK式無線電話機を発明し,16年三重県鳥羽~神島,答志島間にこれを用いて公衆通信業務を開設したが,これが日本における最初の公衆無線通信である。
一方,電子管の発明によって信号の増幅や発振などの無線回路技術が飛躍的に発展し,長波帯から中波,短波帯の周波数を利用することができるようになった。また,これに伴い大規模な長波アンテナが比較的簡易なものですむこと,さらには電離層の存在が23年にE.V.アップルトンにより実証されて,短波通信は第2次世界大戦の終了まで遠距離通信を主体にその全盛時代であった。1920年代からは無線通信に重要な多くの発明があり,利用できる周波数も幅広くなった。無線通信技術の進歩は,遠距離通信のみならず国内通信幹線の建設という世界的な要求に応ずるため,超短波または極超短波という未開拓の分野における多重通信の研究・実用化を促進した。日本では40年に青森県石崎と北海道当別間61kmに75MHz帯を用いた周波数分割多重電話6回線を振幅変調方式で多重伝送する最初のシステムが開通した。
一方,第2次大戦中のレーダーなどの電波兵器の研究・開発を基礎とする技術が無線通信に応用され,戦後の発展を導いた。すなわち,アメリカではベル研究所が中心となり48年にはTD-X方式が,ついで50年にサンフランシスコとニューヨーク間に電話600回線をもつTD-2方式がそれぞれ開通した。51年にはサンフランシスコ講和条約のテレビジョン実況放送がTD-2方式で全米に中継された。
日本のマイクロ波中継はNHK,国鉄(現JR),ついで電電公社(現,日本電信電話(株))がそれぞれ実用化したが,FM多重マイクロ波中継がマイクロ波伝搬の研究とともに,見通し外通信,10GHz以上の高い周波数帯の開拓,無線装置をトランジスターなどにより固体電子化していっそうの信頼性の向上,小型,低消費電力化,経済化の方向へと発展した。一方,見通し外通信は高出力送信機,低雑音増幅器,大型アンテナ,各種ダイバーシティ,周波数負帰還位相検波方式による高感度受信方式,対流圏電波伝搬などの技術が集約されており,のちの衛星通信地球局の技術へ継承された。
FM信号は振幅の変動分をもたないので,伝送系は振幅の直線性が要求されず回路が簡単な特徴を有するが,単側波帯変調に比べて無線周波数の利用効率が低い。このため,アメリカでは,81年にベル研究所で6GHzを用いて電話6000回線を伝送するAR6A方式を,また83年MCI(Microwave Communication Inc.)社が5400回線の方式をそれぞれ実用化した。日本でも電電公社が同年完成したSSB-AM方式は,きわめて高度の直線性,局部発振器の周波数および位相制御技術を必要とする方式である。
通信網のディジタル化に応じて1970年代からアナログFM無線通信もディジタル化しつつある。変調方式も周波数シフトキーイング方式(FSK)の2倍の伝送効率を有する4相位相シフトキーイング方式,FSKの4倍の効率のある16値直交振幅変調方式,FSKの6倍の効率のある64値直交振幅変調方式が実用化されている。日本では,83年に電電公社が16値直交振幅変調方式(200Mビット/s)を実用化した。また,アメリカでも同じころ64値直交振幅変調方式(135Mビット/s)のものが導入されている。これら高レベルのディジタル変調信号はフェージングなどによる波形ひずみを時間および周波数領域でそれぞれ順応,等化する自動補償制御技術が用いられる。
移動体通信については表のように戦後警察無線の発達を契機に,半導体技術の進歩と情報処理およびディジタル制御技術の発展により,利用できる無線周波数の拡大,機器の小型化,軽量化,低消費電力化および高性能小型電池の開発などにより飛躍的に発展した。
→移動体通信 →簡易無線 →パーソナル無線
無線通信で伝送される信号は電話の音声,ラジオ放送の番組,電信やデータ通信の信号,ファクシミリやテレビジョン放送の画像情報など通信の内容によりアナログまたはディジタル信号など多岐にわたるが,使用される無線周波数や変調方式などはその目的や技術的・社会的諸条件によりもっとも適したものが用いられる。無線通信でなければ不可能な通信サービスとしては移動体通信と衛星通信,宇宙基地相互間などの衛星通信などである。移動体通信は無線基地局と移動無線端末機により構成される自動車電話のような小無線ゾーンを切り替える高度にシステム化されたものから,パーソナル無線のように陸上基地局を介さないで移動無線機相互間のみで通信のできる簡単な装置で実現可能なものまできわめて多種のものが利用されている。また移動無線機が搭載される移動体の種類により,陸上,海上,航空などの種別があり,おもに第2次大戦後急速に発展した。
固定無線は,短波による遠距離通信がかつては盛んであったが,通信量が増加した現在では大部分が衛星または海底ケーブルなどに置きかえられている。しかし短波通信は簡単な装置で通信ができる手軽さのため,災害時の連絡用またはアマチュア無線などに現在でも活用されている。UHF帯以上のマイクロ波通信は高性能アンテナや高能率変調技術により電波の有効利用がはかられることと,広帯域伝送が比較的短期間,かつ経済的に実現できることや自然災害の影響を受けにくいことから光ファイバー通信とともに広く用いられている。また最近はミリ波帯(50GHz帯もその例)により各種のコンピューターやOAターミナル装置を組み合わせて都市内の通信手段として柔軟に用いられるに至っている。地上放送および衛星放送はサービスエリア内の不特定多数へ向けての一方向通信であるが,電波が四方に伝わる性質を生かしたもので,ファクシミリやニュースの同放通信や無線呼出しradio pagingなどにも利用されている。
→電気通信
執筆者:林 義昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電波を用いた通信の総称。電波を初めて通信に利用して成功したのはイタリアのG・マルコーニであり、1896年のことであった。マルコーニは、100メートルの銅線を空中高く懸垂し一端を地中に埋めたが、これがアンテナの始まりである。その後、真空管、トランジスタ、そして現代のLSI(大規模集積回路)に至るエレクトロニクスの進展により、無線通信は急速に発展し、現在ではあらゆる分野で使用されている。無線通信に用いる電波には、超長波、長波、中波、短波、超短波、極超短波、マイクロ波、ミリ波がある。
また、無線通信を用途面から分類すると、(1)固定通信、(2)移動体通信、(3)衛星通信の三つに大別できる。
(1)固定通信 固定した地点間の通信であり、マイクロ波を用いた方式が主流となっている。1990年代までは、電話網の長距離通信用として4ギガヘルツ帯、5ギガヘルツ帯、6ギガヘルツ帯が多く使用されていたが、これらの固定通信は光通信にとってかわられて、あいた周波数帯は再編成されて急速に需要を増している移動体通信などに使われることになっている。中・短距離通信方式では、11ギガヘルツ帯、15ギガヘルツ帯が主として使用され、20ギガヘルツ帯はおもに短距離用に用いられている。
(2)移動体通信 発信・受信のいずれか、あるいは双方が移動しながら通信するもの。船舶通信、航空機通信、警察のパトロール通信などの重要通信用から始まり、長い歴史がある。近年は1980年代から公衆通信用として列車電話、自動車電話、さらに現在の携帯電話へと普及してきた。移動体通信に使用される周波数帯は、電波の伝搬特性上、長距離通信は短波が、数十キロメートルまでの中距離は超短波、極超短波が使われている。また携帯電話は、極超短波の800メガヘルツ帯や1.5ギガヘルツ帯が使われてきているが、今後はさらに高い周波数帯が使われていくことになる。
(3)衛星通信 宇宙空間にある人工衛星などの宇宙局を介して行う通信で、静止衛星打上げ技術の進展と国際通信需要の増大によって、急速に発展した。衛星通信は、一つの衛星で広範囲をカバーできるので、国際通信のほか、離島との通信や災害時の通信などにも利用される。国内固定通信や、移動体通信にも用いられる。使用される周波数帯としては、「電波の窓」とよばれている1~10ギガヘルツの間が適しているが、伝送容量の増大の必要から、10ギガヘルツ以上の周波数帯(11、14、20、30ギガヘルツ帯)も使用されている。
[坪井 了・三木哲也]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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