日本大百科全書(ニッポニカ) 「マカーマ」の意味・わかりやすい解説
マカーマ
まかーま
maqāmah
古典アラビア文学の一形式。「集会」あるいは「座談」の意で、よくこの複数形のマカーマートmaqāmātが用いられる。一種の韻律をもった散文、すなわちサジュウ(押韻散文)で書かれ、しばしば詩歌が挿入される。この形式の影響はフランスの古詩『オーカッサンとニコレット』に認められるといわれる。作品はそれぞれ短編風のもので、作者が聞いた話という形式をとっているが、全体を通しての主人公が登場する。それはいたずらの好きな道化風の男で、ことば巧みに人をからかったり感心させたりする。また、各編ごとに一幕劇のような構成をもち、一種のマイム(黙劇)であるとする研究者もいる。
マカーマ作者はイブン・ドゥライド(933没)に始まるといわれるが、文学史上もっとも有名なのはハマザーニーおよびハリーリーの2人である。前者はバディー・ウッ・ザマーン(当代の驚異)ともよばれ、51編のマカーマを残しており、後者はアル・ハマザーニーを模した50編のマカーマを残した。これらはアラビア文学史上の秀作といわれ、コーランに次ぐ作品とも評されている。『千夜一夜物語』が多くは通俗語で伝えられ、口語で民間に流布したものであったのに対し、マカーマを集めた『マカーマート』は規範的なアラビア語を用い、諸種の形容なども韻を踏んだり豊富な語句を並べるなど手のこんだものであった。したがって、前者はアラブの知識人によって通俗文学として重んじられていないが、後者は高く評価されている。しかし、そこに描かれた中世アラブの世界には明らかに共通のものが感じられ、いずれも、アラブの座談好みと人間臭の産物といえよう。
[矢島文夫]