改訂新版 世界大百科事典 「マカーマート」の意味・わかりやすい解説
マカーマート
maqāmāt
説話形式のアラブの散文文学の一ジャンル。単数形はマカーマmaqāma。10世紀ハマザーニーによって創作され,11世紀ハリーリーによって大成された。主人公は学識,詩才,機知に富み,加えてずる賢い。あるときは貧者,乞食,不具者に身なりを変え,またあるときは説教師,学徒,旅人になって,マカーマで荒稼ぎし,同席した語り手がそれを語るという形式である。マカーマとは,人の集う所の意味で,まれに小人数の場合もあるが,多くは町の辻,モスク,大邸宅,墓地など多人数の集まる所である。こうしたマカーマで,主人公はその場に応じた才覚を発揮して,その見返りに聴衆から金品の布施を受ける。彼が立ち去った後,語り手も含めた聴衆はだまされたことに気づくが,その才知に舌を巻く,といった筋である。マカーマは1編ずつ異なった地名が付され,筋も異なったくふうがされ,当時の日常生活,宗教観,考え方が息づいている。文体はサジュー(押韻散文)で統一され,盛上がりの部分では詩が入る。西洋の悪漢小説に比肩でき,近代になって再評価が行われている。なお,《マカーマート》の挿絵としては,アッバース朝期のシェフェール本(1237。パリ,ビブリオテーク・ナシヨナル)が知られる。
執筆者:堀内 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報