マジュンガトルス(読み)まじゅんがとるす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マジュンガトルス」の意味・わかりやすい解説

マジュンガトルス
まじゅんがとるす
[学] Majungatholus atopus

竜盤目獣脚類(亜目)ケラトサウルス類(下目)ネオケラトサウルス類Neoceratosauriaに属する恐竜

 アフリカ南東部、マダガスカル北西部のマジュンガ付近に分布する、約8000万年前のマエバラノ層から発掘された。材料は二つの部分骨格からなり、完全な頭骨と亜成体を含む。推定全長は約6メートル。学名の由来は「マジュンガ盆地のドーム」という意味である。かつてマジュンガトルスの頭骨だけが部分的にみつかったときには、頭のこぶ状隆起から厚頭竜類に間違えられたものである。

 マジュンガトルスの特徴の一つは、頭骨の上側表面のしわ状構造や、こぶ状や角(つの)状の隆起があることである。南アフリカのケラトサウルス類・カルノタウルスCarnotaurusは角状突起が目の上に2本あるが、マジュンガトルスの角は中央に1本である。この角や頭骨の鼻付近の内部には大きな空洞がある。頸椎(けいつい)の肋骨(ろっこつ)の先端は二またに分かれている。脊椎骨(せきついこつ)は鳥のものとよく似た構造で気嚢(きのう)をもっており、空気を吸うことも吐くことも同時にできたらしいと推定された。

 下顎(かがく)の骨にある大きな穴や、頸椎の大きな神経棘(きょく)などはアベリサウルス類に似る。アベリサウルス類では手足の肘(ひじ)や膝(ひざ)から先が極端に短い。いずれにしろ、マジュンガトルスとそれに近縁な獣脚類は、ゴンドワナ大陸(現在の南アメリカ、アフリカ、インド、南極、オーストラリアなどがつながってつくっていた大陸)だけにしか分布していなかったらしい。

 マジュンガトルスで著名なのは、頭骨についてCTスキャンによる研究が行われたことである。この恐竜の発掘時には頭骨はばらばらの産状であったので、個々の骨は別々にCTスキャンされ、個々の骨の立体モデルがコンピュータに取り込まれた。次に変形していた化石が本来の形に復原され、骨どうしを関節させることによって頭骨が組み立てられた。CTスキャンでは、化石と化石の内外を覆う母岩とがX線透過率が異なるときにはそれぞれを見分けることができるので、コンピュータの三次元データ上で化石のクリーニングができる。こうしてマジュンガトルスの頭骨内部の内耳や脳函(のうかん)(脳頭蓋(とうがい)。脳とその周辺の組織が入っていたところ)、骨内部の空洞の立体的データも得られた。これにより、脳函内部を脳が満たしておらず小脳も小さいことがわかり、原始的獣脚類の脳と判明した。また、通常は内耳の三半規管で頭が水平方向に保たれ両眼視していたらしい。鼻周りの空洞は鳴き声を反響させ、より太い音を出させる効果があった可能性を示す。内耳の周りの骨のくぼみは、ほかの獣脚類に比してとくに発達はしておらず、マジュンガトルスの低周波の音を聞く能力はそれほど優れてはいなかったと考えられる。CTスキャンを使うことで明らかにされたように、鼻の骨の空洞は鼻腔(びくう)のための空洞よりも大きく、脳函は頭骨中の空洞の6%を占めるにすぎないなど、マジュンガトルスの頭骨には非常に大きな空洞部が含まれている。

[小畠郁生]

『真鍋真監修、朝日新聞社事業本部編「恐竜博2005 恐竜から鳥への進化」(カタログ。2005・朝日新聞社)』

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