耳のいちばん奥にある内耳の一部を形成している三つの管状器官。内耳には音を感ずる蝸牛,身体の平衡感覚に関係する前庭・三半規管がある。前庭vestibuleが直線加速度・重力・遠心力などを感受するのに対し,三半規管は回転加速度刺激を感受している。三半規管は,前半規管,外側半規管,後半規管の三つの半規管semicircular canalによって構成され,それぞれの半規管は互いに直角をなすよう位置している。また半規管の一部はふくらんでいて,そこは膨大部と呼ばれている。膨大部には平衡をつかさどる感覚細胞が集まり,その繊毛は長くのびてクプラcupulaと呼ばれ,半規管の中にある内リンパの動きを敏感に感じとって,その情報は前庭神経を通じて脳に伝えられる。三半規管は円口類を除く(メクラウナギでは1個,ヤツメウナギでは2個しか半規管がない)すべての脊椎動物に存在し,ヒトでは胎生7~8週でほぼ原型が完成する。無脊椎動物では,前庭だけが存在し,半規管は欠如している。
三半規管はヒトが頭位を通常の状態で正面を向いているときは,外側半規管は水平面より約30度上方を向いている。したがって,頭を約30度前屈して,外側半規管をほぼ水平の状態として身体を回転させると,外側半規管の中の内リンパの流動が起こり,それが膨大部の感覚細胞に伝わり,さらに前庭神経をへて脳幹や小脳および外眼筋に伝えられる。この感覚は実際にはめまい感として感じられ,その客観的現象としては,眼に眼振としてあらわれてくる。この現象をとらえて半規管の機能を知る目的で発展したのが,平衡機能検査にも用いられる回転検査である。また頭の位置を60度うしろに後屈して外側半規管を垂直にし,外耳道に体温より低い水あるいは温かいお湯を注入すると,外側半規管の一部の温度が変化して,内リンパに対流が起こる。この動きもまた膨大部の感覚細胞を刺激して,前庭神経,脳幹,小脳,外眼筋へと伝えられて眼振を生じ,刺激された人はめまいを感ずる。これは温度刺激検査と呼ばれ,平衡機能検査の中の重要なものの一つとなっている。
このように三半規管は身体の平衡に深く関係しているため,ここが障害されると激しいめまいが起こってくる。その代表的な例がメニエール病である。内耳炎とか突発性難聴のような内耳が障害される病気の多くは,三半規管も同時に障害されて,激しいめまいを起こしてくる。また乗物酔いは,主として直線加速度の刺激で,前庭の耳石がその刺激を感受して起こるとされるが,回転加速度刺激の影響も否定できず,三半規管の関与も考えられている。
解剖学的には,三半規管と命名されるようになったのは16世紀になってからといわれる。しかし,その機能とか生理的意義がわかるようになったのは19世紀になってからである。すなわち1842年フルーランMarie J.P.Flourens(1797-1867)が,鳩の三半規管を部分的に破壊すると頭がまがったり,うまく歩けなくなることを発表してから,三半規管が身体の平衡保持に重要な場所であることがわかってきた。その後,多くの研究者により三半規管の詳細な働きが解明され,さらに20世紀に入ってから,バーラーニRobert Bárányが温度刺激・回転刺激による検査法を発表して,その功績によりノーベル賞を受賞した。以来三半規管の身体平衡保持における意義あるいは平衡機能検査の中にしめる三半規管の役割がますます明確となり,今日に至っている。
→耳
執筆者:野末 道彦
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…聴覚に関係する部分は蝸牛(かぎゆう)と呼び,名前のように2回転半巻いている全長約30mmの管である。平衡覚にあずかるのは,直進運動を感ずる耳石器(前庭にあり,垂直,水平の二つの方向に位置している)と,回転感を感ずる三つの半規管(三半規管)の二つに分かれる。耳石器には二つの感覚装置,半規管には互いに直交する3本の管のなかに各1,計三つの感覚装置がある。…
…こうした特徴からみて,原始脊椎動物は鋭敏な聴覚をもたず,耳の機能はおもに平衡覚にあることが推察される。無顎類以外の脊椎動物,つまり顎口類では,前・後・外(水平)の三半規管の付属した卵形囊と,球形囊が膜迷路の中心をなしている。これらの小囊と球形囊に隣接する〈壺(つぼ)〉の内壁には,内耳神経の終末が分布する感覚上皮の斑点があり,それぞれを卵形囊斑,球形囊斑,壺(こ)斑という。…
※「三半規管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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