旧ロシア・ソ連の詩人。7月19日、ジョージア(グルジア)に林務官の子として生まれる。父の死後1906年にモスクワに出て、ボリシェビキの非合法活動に加わり、三度逮捕され、監視つきで釈放されたのち画家を志し、美術学校で未来派の画家・詩人ブルリュークと知り合い詩に転じた。革命前の作品には、幻想的な蜂起(ほうき)とその挫折(ざせつ)を背景に巨大な詩人の悲しみと出発を描く詩劇『ウラジーミル・マヤコフスキー』(1913)、長詩『ズボンをはいた雲』(1915)、失恋の主題を叙情的に奏でた『背骨のフルート』(1916)、第一次世界大戦の現実と幻想的未来のユートピア、救世主的詩人の登場を歌う『戦争と世界』(1917)、反抗と失恋と幻想的未来という革命前の主題を民衆的語り物のスタイルに鋳込んだ『人間』(1917)などがある。ロシア未来派の芸術運動の推進者としては有名なマニフェスト『社会の趣味を殴る』をブルリューク、フレーブニコフらと共同で執筆し、講演朗読会では奇抜な服装や言動で聴衆を驚かせた。
十月革命後はロスタ(ロシア通信社)の「ロスタ風刺の窓」に参加し、1000点以上の時事的な風刺プラカードの詩と絵を独力で書き、あるいは国営事業のポスターや宣伝テキストを書くなど、積極的にソビエト政権の宣伝啓蒙(けいもう)事業に参加した。革命後の主要作品には、極点から噴き出す革命の溶岩=現代の大洪水と、対立する階級の代表者たちを乗せたノアの方舟(はこぶね)の運命を追うサーカス風詩劇『ミステリヤ・ブッフ』(1918)、巨人イワンと巨人ウィルソンの一騎討ちという、のちの冷戦状況を予言するような古代叙事詩風の『1億5000万』(1920)、自伝的でユーモラスな長詩『ぼくは愛する』(1922)、革命前の『人間』の続編として書かれ、愛と苦悩と変身幻想と未来世界のビジョンに満ち満ちた『これについて』(1923)、レーニンの葬儀の場面と階級闘争の通史とを組み合わせた『ウラジーミル・イリイチ・レーニン』(1924)、十月革命10周年のために書かれ、パロディと民衆芸能の手法を駆使した巨大壁画風の『ハラショー(すばらしい)!』(1927)、冷凍保存された20世紀の小市民が未来社会に復活する戯曲『南京(ナンキン)虫』(1929)、若者たちが官僚を見捨ててタイムマシンで未来へと消える戯曲『風呂(ふろ)』(1930)などの大作がある。1923年には、ブリーク、アセーエフ、トレチャコフ、パステルナークらと雑誌『レフ』(芸術左翼戦線)を出し、「生活建設の文学」「事実の文学」「能動的文学」などのスローガンを唱え、構成派、「オポヤーズ」(詩的言語研究会)などに大同団結を呼びかけ、一種の即物主義的な現実参加の文学理論を説いた。1925年にはドイツ、フランス、ポーランド、チェコスロバキア(当時)を訪れ、さらにメキシコからアメリカ合衆国に入り、ニューヨーク、デトロイト、シカゴその他の都市を回った。自作朗読の名手でもあり、1926年から1929年までにソビエト国内を旅して300回以上の朗読講演会を開いた。晩年にはスターリン主義体制の始まりとともに『レフ』およびその後の『新レフ』の発行は困難となり、レフ派のモダニズムとプロレタリア作家協会派の教条主義とに挟まれて深い孤独に陥る。私生活ではブリーク夫人リーリャLilya Brik(1891―1978)との長い恋愛関係があり、最晩年の恋人、モスクワ芸術座の女優ベロニカ・ポロンスカヤVeronika Polonskayaとの感情のもつれから、1930年4月14日ピストルで自殺した。
彼の作風は、ロシア未来派の伝統拒否、技術重視の影響が著しく、独特のダイナミックな詩型、激烈な比喩(ひゆ)、アニミズム的擬人化、民衆芸能的パロディー、語呂(ごろ)合せ、誇張や変形などとともに、風刺と内省、叙情と叙事の奇跡的な結合がみられる。その後のソ連の詩人だけではなく、20世紀の世界の詩人たちに重大な影響を与え、現代の詩に新鮮な領域を切り開いた。
[小笠原豊樹]
『小笠原豊樹・関根弘訳『マヤコフスキー選集』全3巻(1960・飯塚書店)』▽『小笠原豊樹著『マヤコフスキーの愛』(1971・河出書房新社)』▽『水野忠夫著『マヤコフスキイ・ノート』(1973・中央公論社)』▽『小笠原豊樹訳『世界の詩15 マヤコフスキー詩集』(1974・弥生書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1893~1930
ソ連の詩人。革命運動に参加,逮捕されたのち,未来派の詩人として文壇に登場。その立場から1917年のロシア革命を支持し,革命後のアヴァンギャルド運動の中心となる。のち『レーニン』『ハラショー!』などを書いたが,自殺した。
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