まらする

精選版 日本国語大辞典 「まらする」の意味・読み・例文・類語

まら・する

〘他サ下二・サ変〙 (動詞まいらす(参)」の変化したもので、本来は下二段活用、終止形は「まらす」のはずであるが、室町時代末ごろ連用形に「まらし」の形も現われ、サ行変格活用としても用いられ、終止形も「まらする」が普通となった。→語誌(1))
[一] 「与える」「やる」の意の謙譲語。対等以上の相手に、差し上げる、献上する意を表わす。奉る。参らす。
※土井本周易抄(1477)六「虞人が羹物のない時はかりをしてまらせつなんどするぞ」
[二] 動詞の連用形に付いて補助動詞として用いる。
謙譲語。話し手側の動作に付けて、動作の及ぶ対象への敬意を表わす。…し申し上げる。
※歌謡・閑吟集(1518)「奥山の朴木よなう、一度はさやになしまらしょ、一度はさやになしまらしょ」
※両足院本毛詩抄(1535頃)一九「賢人才人が文王を愛しまらするぞ」
丁寧語。聞き手に対する丁寧の意を表わす。話し手・聞き手・第三者の、どの動作・状態にも用いる。…ます。
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「フロニワ タダ イチニン ymarasuru(イマラスル)
※虎明本狂言・伯母が酒(室町末‐近世初)「おにがまいって、人をくひまらする程に、用心なされひ」
[語誌](1)まれに、「まらす」の形も用いられ、特に「まい」が後接する場合には、本来の終止形「まらす」が普通になっている。「謡曲・安宅」の「なにやら鳥の留まったごとくにつくつくと見えまらすを」、「虎明本狂言・入間川」の「爰元ではぞんじまらすまいほどに」など。
(2)現代語の丁寧の助動詞「ます」の祖形にあたる。室町時代末期には、本動詞としては接頭語「お」を付けた「おまらす」の方が普通になって、「まらす」はほとんどみられなくなり、もっぱら補助動詞として用いられる。江戸時代に入ると、語形は「まする」さらには「ます」に変化し、謙譲語としての用法はすたれて、丁寧の助動詞として発達する。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「まらする」の意味・読み・例文・類語

まら・する

[動サ下二・サ変]《「まいらす」の連体形「まいらする」の音変化。連用形に「まらし」の形も現われ、サ行変格活用としても用いられ、終止形も「まらする」が普通となった》
「やる」の意の謙譲語。差し上げる。
「この金を―・せん」〈蒙求抄・八〉
(補助動詞)動詞の連用形に付く。
㋐謙譲の意を表す。お…いたす。…もうしあげる。
「ともかくも頼み―・する」〈虎明狂・犬山伏
㋑丁寧の意を表す。…ます。
「ソレガシモ子供ヲ引キ具シテヤガテ参リ―・セウズル」〈天草本平家・二〉
[補説]古くは下二段型、のち連用形「まらし」が生じ、サ変型の活用に移った。中世後期以降、1の用法はみられなくなり、意味も近世以降、2㋑がもっぱらとなる。また、2の用法は「まっする」から「まする」「ます」となり、現代語の「ます」につながる。2を助動詞とする説もある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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