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同一の家系を継承する各世代の代表者である家長とその後継者が家業、家職を、またそれに要する家産を超世代的に受け継ぐこと。これに伴い、その家(いえ)が獲得しえた社会的信用、顧客や仕入れ先や同業者などからの評価に応じ、社会的期待を裏切ることのない家業、家職を保持する努力が後継者には要請される。世代がかわっても家業、家職の連続性、職能水準の保持を内外に表明するため、屋号と家長名の世襲、すなわち「襲名」を行う商家や職商人(しょくあきんど)もあり、何代目何屋何兵衛などと称した。家業は、家長がその家を代表して家の成員の労働を結集し、家産を運用して、家の先祖を祀(まつ)り、その冥護(みょうご)を得て経営され、家代々の経営努力を集積して子孫へ受け継がせ、家の永続繁栄という至上目的を実現するものと考えられた。それゆえ、分家を出すにも、家産の拡大した一部を分家家産として分与するのみで、本家資本の縮小を避けた。のれん分けにも、通い分家は本家店へ通勤させ、店持ち分家では本家店との競合を避けて類似業ないし関連業種を営ませ、いずれものれんの共用連帯による家業への信用拡大を期した。分家もまた、このような本家経営の世襲による繁栄の線に沿い、家業の世襲が可能となりえた。
農家では農地山林、漁家では漁業権の家産としての世襲がみられたが、家産の主要部分は本家に確保し、新規開発部分だけが分家分与される分割相続といってよい場合もあった。その際も山林は分家分与はせず、本家家産のまま本家の許容のもとで分家にも利用させ、これらの形で本分家の家業世襲における家産上の根拠とすることが普通であった。江戸時代の武家では俸禄(ほうろく)の継承が長男の単独相続の形で行われたが、これには願い出による俸禄の再給手続を要した。明治の民法では長男の単独相続を国民全体に拡張規定したが、戸主の財産処分は任意とされたため、従来のような分家分与も可能であった。
現代の専門職でも家業世襲の傾向は医業に顕著にみられるが、伝統芸能を家業とする家では、技芸上の世襲が、原則的に実子に名跡(みょうせき)を継がせ、何代目何某と芸名も襲名させる場合がある。家業がなんであれ、庶民の家での家系継承において、養子や娘婿だけでなく徒弟の養取を含むきわめて柔軟な方法がとられ、父系血統による継承にはかならずしも拘束されず、家業上能力ある適任者をあてえたところに、世襲制による弊害を最小限とする伝統的くふうがあった。
[中野 卓]
『中野卓著『商家同族団の研究』上下(第二版・1978、81・未来社)』
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