モラクセラ・カタラーリス感染症

内科学 第10版 の解説

モラクセラ・カタラーリス感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(12)モラクセラ・カタラーリス感染症
疾患概念・疫学
 モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)はGram陰性双球菌であり,Gram染色による形態ではナイセリアとの判別ができない.本菌は普通寒天培地で発育し,グルコースマルトーススクロースフルクトースマンニトールラクトースなどの糖を分解せず,硝酸塩を還元し,DNaseを産生することから,ナイセリア属とは区別される.本菌は1970年代後半から上気道や下気道の病原性菌として広く認識されるようになった.小児では中耳炎,副鼻腔炎を起こす.中耳炎における本菌の分離頻度は肺炎球菌やインフルエンザ菌についで多く,起炎菌の約15~20%を占めるとされている.成人では,急性気管支炎,肺炎,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の増悪を起こすが,その約7割をCOPDの増悪が占めている.COPDの増悪の原因菌としてはインフルエンザ菌についで第2位である.市中肺炎の起炎菌としては全体の5%程度を占める.免疫不全宿主における呼吸器感染症もしばしば経験され,またまれながら菌血症の報告もある.
病態生理
 モラクセラ・カタラーリスは小児,成人の上気道に定着する.成人における定着率は5%以下と低いが,小児とりわけ乳幼児では鼻咽頭の菌定着率はしばしば50%をこえる.鼻咽頭の保菌は中耳炎の発症のリスク因子となる.しかしながら,上気道の菌定着と下気道感染発症との関連性についてはいまだ明らかでない.菌側の病原性因子の関与も知られている.
鑑別診断
 ウイルスやマイコプラズマなどの非定型菌,インフルエンザ菌などの定型菌などによる上気道および下気道感染症との鑑別が必要となる.
臨床症状・経過・予後
 小児の中耳炎では耳閉感,耳痛などの局所症状に発熱を伴う.鼓膜穿孔により膿性の耳漏(otorrhea)がみられる.急性気管支炎や肺炎では,咳や膿性痰を伴う発熱がみられる.本菌による成人の肺炎では重症化することはまれであるが,免疫不全宿主における日和見肺炎では進行が早い.COPDの増悪では,咳や膿性痰の増加,呼吸困難の悪化にしばしば発熱を伴う.まれながら感染性心内膜炎や敗血症などの全身感染症にも留意すべきである.
検査成績
 膿性鼻汁や膿性痰などの検体のGram染色所見で,多数のGram陰性双球菌と好中球による同菌の貪食像が認められる.一般に,血液寒天培地に増殖した本菌のコロニー形態からは非病原性ナイセリアとの鑑別が困難である.しかし,膿性度の高い痰検体を用いた定量培養では,本菌が純培養状に発育するので,本菌のコロニーを識別しやすくなる.
治療・予防
 本菌の90%以上はβ-ラクタマーゼ産生菌であることに留意する.3つのβ-ラクタマーゼ (BRO-1,BRO-2,BRO-3)の存在が知られている.したがって,本菌の治療にはペニシリン系薬は推奨できない.β-ラクタマーゼに安定な第3世代セフェム系やカルバペネム系,あるいはペニシリン系とβ-ラクタマーゼ阻害薬の配合薬が推奨される.また,経口薬ではキノロン系薬,マクロライド系薬も有用である.[大石和徳]
■文献
カムルディン・アーメッド,真崎宏則:モラキセラ(ブランハメラ)・カタラーリス.病原菌の今日的意味(松本慶蔵編),pp297-311, 医薬ジャーナル社,大阪,2002.
Murphy TF: Moraxella catarrhalis. Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennet JE, et al eds), pp2771-2776, Churchill Livingstone, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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