急性気管支炎

内科学 第10版 「急性気管支炎」の解説

急性気管支炎(感染症)

定義・概念・分類
 急性気管支炎気管支炎症を生じ,肺胞に炎症が及ばない,咳を主症状とする疾患である.細気管支炎を伴う場合もあるが,気管支炎に一括される.喘息性気管支炎は主として乳幼児に喘息様症状をきたす気管支炎を指す.気管支の炎症に伴い,喘鳴や咳を反復して生ずる.成人に比べて気道内腔が狭く,炎症による気道狭窄が起こりやすいために生ずる.急性気管支炎のおもな症状は,咳,痰の増加および色調の変化,呼吸困難,発熱である.
病因・病理
 おもにウイルス感染で生ずる.インフルエンザウイルスライノウイルス,パラインフルエンザウイルス,RS(respiratory syncytial)ウイルス,コロナウイルスアデノウイルスなどが検出される.慢性呼吸器疾患の合併しない場合,細菌の検出頻度は少ない.慢性閉塞性肺疾患(COPD)合併例では半数前後の症例で細菌が検出される.他方で,百日咳菌やマイコプラズマ,クラミジアが検出されることがある.刺激性ガスの吸入が原因となることもある.急性気管支炎により,上皮細胞の脱落,気道壁への炎症細胞浸潤,気道壁の浮腫・肥厚,気道内腔過分泌,気管支平滑筋収縮性亢進が生じる.
臨床症状
 典型症例において,咳は10〜20日,平均2週間前後の期間持続する.マイコプラズマや百日咳菌の感染では咳が3週間以上持続することがある.半数では膿性痰が生じる.症状は自然に軽快するが,症状の持続のため医療機関を受診する患者も存在する.この中には,急性気管支炎に伴う気管支喘息やCOPDの増悪症例も含まれる.急性気管支炎単独では,胸部の聴診で異常がないことが多い.喘息性気管支炎や細気管支炎の合併例では,連続性ラ音(笛音,いびき様音)や断続性ラ音を聴取することもある.
検査成績
 末梢血CRPの上昇や,細菌感染では末梢血白血球数の増加を認める場合がある.インフルエンザウイルス感染を疑う場合,迅速診断を行う.マイコプラズマ,百日咳,クラミジア感染では血清抗体価を測定する.胸部X線写真では陰影を呈さない.
診断・鑑別診断
 診断は臨床的な経過と,他疾患の除外により行う.鑑別すべき疾患として,気管支喘息,COPD,気管支肺炎,慢性咳をきたす疾患(咳喘息ほか)などである.
治療
 インフルエンザ感染ではノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル,ザナミビル,ラニナミビル,ペラミビル)が使用される.百日咳菌感染やマイコプラズマ,クラミジア感染ではマクロライドエリスロマイシンクラリスロマイシンアジスロマイシン,ロキシスロマイシンなど)を使用する.ほかのウイルスは抗ウイルス薬の使用に該当しない.抗菌薬は,COPDの合併症があり,膿性痰がある場合に使用される.これ以外の患者では抗菌薬の適応がない.ただし,インフルエンザウイルス感染などでは肺炎球菌などの二次性細菌感染が重症化に関係するため,症状を観察しながら抗菌薬の投与を考慮する.一般的には,急性気管支炎において鎮咳薬解熱薬など対症療法,脱水予防に対する治療や指導などで対応し,症状を緩和させる.持続する咳や夜間の咳は就学や仕事を妨げ,睡眠障害を生じるため,鎮咳薬の処方を行う.軽症ではジメモルファンやエプラジノンなどを使用する.中等以上ではコデイン製剤(コデインリン酸塩,桜皮エキスなど)を使用する.
急性細気管支炎(狭義)
 狭義の急性細気管支炎は乳幼児の細気管支の好中球炎症疾患で,RSウイルスなどのウイルス感染が原因となる.発熱,鼻汁,乾性で喘鳴を伴う咳を主症状とする.重症例ではチアノーゼや無呼吸を生ずることもある.
急性気管支炎・細気管支炎の経過・予後
 通常は自然に治癒して予後は良好である.気管支喘息やCOPDなどの基礎疾患合併症例では重症化に注意する.[山谷睦雄]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「急性気管支炎」の解説

きゅうせいきかんしえん【急性気管支炎 Acute Bronchitis】

◎かぜ症候群に含まれる
[どんな病気か]
 急性の炎症が気管支の粘膜(ねんまく)におこる病気を、急性気管支炎といいます。ほとんどはウイルス感染が原因でおこり、かぜ(かぜ症候群(しょうこうぐん)(「かぜ症候群(普通感冒)」))に含まれます。
 かぜ症候群では、鼻汁(びじゅう)や鼻づまり、くしゃみなどの上気道(じょうきどう)の症状、せきやたんなどの下気道(かきどう)の症状、発熱や全身倦怠(けんたい)(だるさ)、関節の痛みなど、全身の症状がみられますが、せきやたんの症状が強い場合には、急性気管支炎と呼ばれることがあります。
 つまり、かぜ症候群のなかで、気管支に炎症があって、おもにせきやたんの症状が現われるものに、急性気管支炎という診断名がつけられるのです。
 これらの症状のちがいにあまりこだわらなければ、かぜ(症候群)の診断名が使われることもあります。
 また、インフルエンザでも同じような症状がみられますが、流行している時期には、インフルエンザという病名のほうがわかりやすいかもしれません。
[原因]
 急性気管支炎のほとんどは、ウイルスの感染が原因です。ライノウイルスやパラインフルエンザウイルスなど、かぜ症候群の原因と同じウイルスによるものが多いと考えられていますが、個々の急性気管支炎の原因の大部分は、正確には不明です。
 その意味では、インフルエンザも同じですが、インフルエンザの場合は流行が明らかなことが多いので、インフルエンザの病名がつけられることもあります。
 急性気管支炎は、ウイルス以外の病原微生物であるマイコプラズマや細菌が原因であったり、まれには刺激性ガスの吸入でもおこります。
[検査と診断]
 急性気管支炎では、胸部X線写真にとくに異常はみられません。
 ところが、急性気管支炎によく似た症状を示す肺炎では、胸部X線写真に異常がみられる点が異なります。
 そのため、肺炎との区別をつけるため、胸部X線写真が撮影されます。
[治療]
 ウイルスに直接に効く薬はありません。ほとんどの急性気管支炎は、自然に回復します。したがって治療は、発熱に対する解熱薬(げねつやく)の服用など、対症療法にかぎられます。
 肺炎に進展するのを防ぐため、抗生物質が用いられることもあります。
[日常生活の注意]
 安静と保温がたいせつです。水分が不足しないよう、水分の補給につとめてください。また、肺気腫(はいきしゅ)や慢性気管支炎、気管支ぜんそくの患者さんが急性気管支炎をおこすと、急に病状が悪化して、呼吸困難の発作などをおこすことがあります。そのため、「かぜ」と自分で判断せず、なるべく早く医師の診察を受けてください。
 かぜ(症候群)の予防と同様に、流行期には人ごみを避けるなどの注意が必要です。インフルエンザのワクチン接種を受けるのも1つの方法です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の急性気管支炎の言及

【気管支炎】より

…急性と慢性とがあり,両者は原因も,症状,治療法も異なる。
[急性気管支炎]
 しばしば風邪(感冒)にともなって起こり,上気道(鼻・咽腔,喉頭)の炎症である風邪症候群が気管や気管支の粘膜に波及して起こることが多い。いわゆる〈風邪をこじらせた〉状態である。…

※「急性気管支炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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