六訂版 家庭医学大全科 「急性気管支炎」の解説
急性気管支炎
きゅうせいきかんしえん
Acute bronchitis
(呼吸器の病気)
どんな病気か
気管支は、
微生物の感染により気管支粘膜に炎症が起こり、
肺炎でも痰を伴う咳が急に現れて発熱がみられますが、胸部X線写真上で肺に陰影が認められない場合に、気管支炎という診断が臨床的になされます。
慢性の呼吸器の病気、たとえば慢性気管支炎やびまん性汎細気管支炎(せいはんさいきかんしえん)、
原因は何か
感染症としての急性気管支炎の原因としては、ウイルスがほとんどです。成人の場合はライノウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、アデノウイルスなどが原因になります。ウイルス以外では、マイコプラズマやクラミジアが原因になります。細菌が原因になることはまれです。
呼吸器に慢性の病気のある人に、痰の増加や発熱が急に起こった場合の原因としては、ウイルスと細菌の両方が重要であるといわれています。この場合は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどが主な原因細菌となります。
症状の現れ方
急性気管支炎は急性
痰が長く続いたり、
検査と診断
検査は、気管支炎の診断と原因微生物の診断の2つの目的で行われます。
気管支炎は明確な診断基準(クライテリア)はなく、症状と肺炎の否定によって行われます。急激に痰と咳を示す患者さんでは、肺炎の否定のためには診察と胸部X線検査が必要です。聴診で、粒の大きな
原因微生物の診断のための検査は、急性気管支炎がウイルスによって発症することが多いため、あまり有用な方法はありません。ウイルス以外のマイコプラズマやクラミジアも同様で、一般の検査室で行われる細菌学的に迅速で有用な検査法はありません。血清学的診断法として、抗体価を測定する方法があり、最近、マイコプラズマでは迅速にIgM抗体を検出する方法が開発されましたが、気管支炎そのものは疾患が重症化することが少ないために、肺炎と違って気管支炎では使われることは少ないのが現状です。
インフルエンザによる気管支炎は例外で、鼻腔や咽頭ぬぐい液から抗原を検出する迅速診断法が行われています。インフルエンザでは高い熱がみられ、高齢者や小児では重症化することもあり、かつ有効な治療薬があるために、迅速に検査が行われています。
一方、細菌性の気管支炎として重要なものに
インフルエンザや百日咳などの特殊な場合を除いて、原因微生物診断のための検査は通常は行われません。
治療の方法
原因微生物に対する特有な治療は、ウイルスが原因の場合、インフルエンザを除いて有効なものはありません。迅速診断法でインフルエンザAあるいはBと診断できた場合は、発症後48時間以内ならば両方の型ともにオセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)、A型にはアマンタジン(シンメトレル)が有効です。
マイコプラズマやクラミジアは、周囲に同じような症状の人がいた場合に疑われる病原微生物で、マクロライド系(エリスシン、クラリス、クラリシッドなど)やテトラサイクリン系(ミノマイシン)が有効です。また、ニューキノロン系(クラビット、アベロックス、ジュニナックなど)の抗菌薬も有効です。
細菌性の場合は、百日咳ではマクロライド系抗菌薬を選びますが、それ以外の場合には抗菌薬が臨床的に有効であるという根拠はありません。
病気に気づいたらどうする
急性気管支炎のうち、インフルエンザ、マイコプラズマ、クラミジアが原因の場合には、有効な抗菌薬治療があります。長期に続く
朝野 和典
急性気管支炎
きゅうせいきかんしえん
Acute bronchitis
(子どもの病気)
どんな病気か
原因は何か
原因の多くはウイルス性で、細菌感染はウイルス感染後の二次感染と考えられます。まずウイルス性上気道炎が先行し、上気道分泌物の下降や呼吸に伴う吸引、ウイルス感染の下気道への波及などにより、上気道炎症状が出てから3~5日後に気管支炎が発症します。
症状の現れ方
急性気管支炎の主な症状は、上気道炎症状に続く湿性咳嗽です。
上気道炎症状には、水様鼻汁、くしゃみ、咽頭痛、発熱などがあり、このような上気道炎症状に続き、呼吸器症状が次第に目立つようになります。呼吸器症状としては、強い咳(初期には乾いた咳であり、そのあと痰の絡んだような湿性咳嗽となる)、痰があり、小さい子どもでは、もともと気管支が細いことから
ウイルスによる場合が多いのですが、いったん解熱したあとに再び発熱する、発熱期間が長い、全身状態が悪化してくるといった症状が認められる場合は、細菌感染の合併が疑われます。
検査と診断
咳を主とする呼吸器症状を示し、胸部聴診で呼吸音に混ざるぶつぶつ、ぱちぱちといった雑音を聴取し、強い咳や痰などの下気道の炎症症状がある場合には気管支炎や肺炎が疑われます。胸部単純X線写真上で
治療の方法
気道の浄化のためには、気管支拡張薬や痰を切りやすくする去痰薬が使用されます。
坂井 貴胤
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報