フルクトース(読み)ふるくとーす(英語表記)fructose

翻訳|fructose

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フルクトース」の意味・わかりやすい解説

フルクトース
ふるくとーす
fructose

代表的なケトヘキソースケトン基をもつ六炭糖)として知られ、天然のものはD-フルクトースで、多くの果汁中にあるので果糖、また左旋性であるところからレブロースlevulose(左旋糖)ともよばれる。比旋光度

で、融点104℃。結晶しにくく、吸湿性が強い。水に溶けやすく、エタノールエチルアルコール)やアセトンにも溶けるがピリジンには溶けにくい。フェーリング液を還元して赤色沈殿を生ずる。D-グルコース(ブドウ糖)とともに果汁や蜂蜜(はちみつ)中に遊離の形で存在し、自然界に存在する遊離のフルクトースはほとんどがピラノース型で、少糖や多糖中ではつねにフラノース型である。キクイモダリアなどキク科植物の塊根中に含まれる多糖のイヌリンは、フルクトースの重合物(フルクタン)であり、酸加水分解でフルクトースを生ずる。

 フルクトースの甘味糖類中最高で、ショ糖の約1.5倍も甘い。結晶のβ(ベータ)型は甘味が強いが、溶液になると甘味がβ型の3分の1ぐらいしかないα(アルファ)型に部分的に変化し、温度が高くなると、α型の含量が増えてくる。したがって、加熱によって甘味が弱まる。ショ糖の加水分解物には等量のフルクトースとグルコースが含まれており、甘味料として優れ、転化糖とよばれる。また、グルコースに異性化酵素を作用させて一部をフルクトースに変え、甘味を増強させた異性化糖もつくられている。

 動物界では一般に合成されないが、精液中にあって精液糖とよばれ、精子のエネルギー源になる。動物に摂取されたフルクトースはヘキソナーゼやフルクトキナーゼなどによってフルクトース-1-リン酸に変えられる。リン酸エステルのうち、フルクトース-6-リン酸やフルクトース-1・6-リン酸は解糖系の中間に位置し、生化学的に重要な役割を果たす。また、フルクトースを静脈注射するとグルコースより速やかに吸収され、糖尿病患者ではインスリンとは無関係に甘味料として用いられる。

[村松 喬]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フルクトース」の意味・わかりやすい解説

フルクトース
fructose

一般にD-フルクトースのことをさす。果糖ともいう。化学式 C6H12O6 。無色の吸湿性の結晶で融点 103~105℃。広く植物中に存在する。特にグルコースなどとともに果実中に遊離の形で,あるいはグルコースと結合してショ糖として含まれる。また動物の精液の主要な糖で,精子のエネルギー源である。糖類のなかで最も甘く,製菓に利用されるほか,グルコースの利用できない糖尿病患者用の甘味料,解毒剤,強心剤,利尿剤などとして用いられる。蜂蜜,果汁から分離され,ショ糖,フルクタンの加水分解などによって製造される。

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