改訂新版 世界大百科事典 「モース理論」の意味・わかりやすい解説
モース理論 (モースりろん)
Morse theory
微分可能多様体Xの上に微分可能な関数fが与えられるとき,ごく少数の関数を例外として,Xの位相幾何学的構造と,fの極値の状態とは密接に関係しあっている。ひと口にいえばこれを表現するのがモースの理論であり,H.M.モースによる。例えば,Xを平面地図,fをその上の山の高さとする。ふつうにはこのとき,標高aの等高線f⁻1(a)と標高bのそれf⁻1(b)とは,aとbとの間にfの極値,すなわち山頂,谷,鞍点がまったく現れなければ,位相的には同じ形をしており,また逆に,極値が現れて,形が崩れる場合は,崩れ方が極値の状態(それが山であったか谷か鞍か)によって支配されていることもわかる。この事実を一般の微分可能多様体Xと,その上の微分可能な関数fに対して拡張したものがモースの指数定理であり,モースの理論の骨子をなすものである。すなわち,非退化なfの極値を,0からXの次元までの整数(これを指数という)によって分類し,各指数の極値が現れるときの等高線f⁻1(a)の形の崩れ方を,位相幾何学的な方法によって表現したものが,指数定理にほかならない。そこでf(X)の最小値(より下)に対する等高線から始めて,最大値までをこの指数定理を用いてたどるとき,最終的には,多様体Xの位相幾何学的構造が,その上の関数fの極値の状態から読みとれることになる。この定式化には,ホモロジー群の位数によるもの,ハンドル接着の方法によるものなどがあるが,それらをモース理論と総称することが多い。歴史的にはこの理論は,関数族の上に与えられた(汎)関数の極値問題を取り扱う理論,すなわち変分法の研究において,極値そのものの解析的性質を扱う,いわば局所的な見地の対極として現れたものであって,全体としての極値の数やその大域的構造を問題とするということから,厳密な区別ではないが取り扱う対象が幾何学的であるよりも,より解析的で変分法のそれに近いとき,すなわち関数や写像のなす無限次元多様体の場合などでは,大域変分法の名で呼ばれることも多い。
執筆者:四方 義啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報