ランスロ物語(読み)ランスロものがたり(その他表記)Roman de Lancelot

改訂新版 世界大百科事典 「ランスロ物語」の意味・わかりやすい解説

ランスロ物語 (ランスロものがたり)
Roman de Lancelot

アーサー王に仕える円卓の騎士の一人ランスロ卿を主人公とする物語。最初に成立したのは,おそらくフランスでクレティアン・ド・トロアが1170年代に書いた韻文長編《ランスロまたは荷車の騎士》で,他界の王にさらわれたアーサー王妃をランスロが屈辱に耐えて救出する挿話を物語るものであった。ランスロを誕生・生い立ちから扱った作品としては,今日伝存しないフランス語作品(しかしその存在と内容は12世紀末のドイツ語訳《ランツェレット》によって知られる)を種本の一つとして1220年代にフランス語散文作品《ランスロ本伝》(別名《湖水のランスロ》)が書かれた。これによるとバン王の幼い息子ランスロは父の死後,湖水の妖精ニニエンヌ(魔法使いメルランの愛人)にさらわれ,湖中の別世界で養育されて立派な騎士に成長,アーサー王の宮廷に迎えられるが,王妃グニエブルとの不倫の恋によってその不幸な運命が準備される。この《ランスロ本伝》に,別作者による《聖杯の探索》《アーサー王の死》が加わって,《散文ランスロ》が成立し,いわゆる《ランスロ聖杯》の核心を形成する(聖杯伝説)。この散文集成は,当代一の英雄ランスロがその道ならぬ恋ゆえに聖杯探索成就の役割を息子のガラードに譲るなりゆきと,その恋の露顕からアーサー王との離反招き,さらにアーサーの王国瓦解にいたる悲劇を描いて,のちのT.マロリーによる英語散文大作《アーサーの死》の重要な先行作品となった。
アーサー王伝説 →円卓物語
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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